往診で医療インフラ支援 夜間・休日診療支える ファストドクター 菊池亮社長
夜間・休日専門の救急往診、オンライン診療などを手掛けるファストドクター(東京都港区)。限りある医療資源を効率的に支え、民間企業の力で24時間の切れ目ない医療を提供している。
不要な救急車利用が治療の遅れや医療機関の負担増、医療費の増大を招く中、同社が救急車以外の「選択肢」となることを目指すほか、超高齢社会で負担が大きくなっている在宅医療機関に代わりオンコール対応や緊急往診、看取りなども代行。テクノロジーを活用して社会課題の解決へ向かう、医師の菊池亮社長に話を聞いた。

菊池亮社長
地域課題に対応24h体制構築
――ビジネスモデルについて
菊池 当社は2016年、夜間・休日専門の救急往診を核にサービス提供を開始した。患者はまず、WEBや電話、公式アプリより診療を依頼する。当社のコールセンターでの聞き取りをもとに、医師がトリアージを実施。往診が必要と判断した場合は医師が患者の自宅へ訪問する。診察内容に応じ、その場で薬の処方も可能。患者が支払うのは、健康保険診療費と交通費(実費/最大960円)のみ。
提携医療機関は現在約20ヵ所。半径16キロメートル圏内に対応できることから、自治体との提携も合わせると人口カバー率は6割に上る。ファストドクターというプラットフォームに登録している医師は、活動する日は当社と提携している医療機関と雇用契約を結び診療を行う。患者はこの医療機関に診療費を支払い、医療機関側は医療行為以外の業務を委託する当社に対し、プラットフォーム利用料として対価を支払うというのがマネタイズの手段だ。
――自治体との提携や在宅診療支援も
菊池 現在約40自治体と提携している。昨年12月にモデル事業の検証を開始した福島市では、「デジタル往診」を行っている。これは、現地の訪問看護師とオンライン接続し、医師・看護師・患者の3者間(D to P with N)による「オンライン診療」を行うもの。実際の救急往診に近い診察が実現可能なモデルといえる。
オンライン診療活用も コロナ後見据え医師育成
――オンライン診療について
菊地 20年4月より開始したオンライン診療の利用率は、21年後半から伸びた。21年12月と22年12月を比較すると、件数は約20倍になっている。コロナ禍による、初診へのオンライン解禁という流れは偶発的なものだったが、認知度は高まっており今後もニーズは増えるだろう。
現在、北海道旭川市で救急隊と連携し、不要な救急車利用の削減に取り組んでいる。また、旭川発祥の「くにもとメディカルグループ」が運営する医療機関などとも協業。都心部の潤沢な医療リソースを地方に配分すべくオンラインを活用しており、こうした事例を拡げることで医療資源の地域差を縮小できると考える。
――短期間で急成長を遂げている。コロナ禍が患者増のきっかけとなったのか
菊池 当社のサービスが地域の公共インフラの中で機能するにあたり、コロナ禍はまさしく契機となった。20~22年の3年間で、患者数は4.5倍に増加している。救急相談のピーク時の件数は1日約4000件。メディカルコールの相談体制は総勢300名で行い、1日約200名の医師が診療している。コロナ禍で自宅療養者が増加する中、地域の医療機関と協力し24時間体制を構築した。
――医療の質の維持・向上への取り組みは
菊池 現在、当社の登録医師は約1700名、看護師約400名、ドライバーなど含む全医療従事者は約2500名。ファストドクターに登録している医師は主に非常勤で、診療品質の標準化が必要。医師の評価を完全に定量で行うというチャレンジは、当社ならではだろう。
医療・サービスの質は成績表であり、行動指針に則って診療したかどうかなど7段階で成長を評価し、これを基にインセンティブや福利厚生を高めていく。こうした未来像に向けた組織作りに取り組んでいる。
今後は、チームをさらに強くしていくために常勤医師を増やしていく方針だ。所属医師に行ったアンケートでは、9割が「ミッションに共感した」と回答。働く理由としては「救急現場の課題解決に貢献できる」「コロナ禍でも活躍できる」などが多く、専門病棟とは違い、さまざまな症状や生活環境の患者に触れて学び直しができる機会になっていると感じる。
――介護業界との協業にはどのようなケースがあるのか
菊池 特別養護老人ホームの嘱託医の課題、ロングショートステイへの対応支援などにニーズを感じている。
コロナに関しては、保健所からの要請にもとづき施設に赴いて診療を行うことが増えている。陽性診断から入院調整までに関しても、フォローを受けられていない施設は多いと感じる。コロナ禍で起きていることは、高齢化のピークを迎える2040年にも起き得ること。一部施設では事前に患者情報を受け取って対応している例もあり、こうしたケースを増やしていくことも検討している。