映画「ケアを紡いで」AYA世代における助成制度の課題/小川陽子氏

2023年4月22日

「ネガティブな自分を抑制せず素直にただ受け入れた」
わが国では、年間に約100万人が癌に罹患するとされている。そのうちAdolescent(思春期)、andYoung Adult(若年成人)の頭文字をとったAYA世代(おおむね15歳〜39歳)のがん患者数は約2万人に過ぎない。しかし、壮年期以降の世代に比べ、希少ながんも多く、がんの種類や見つかるステージもさまざまで、治療も経過も人によって全く異なるという。

 

 

AYA世代は、わたくしが振り返ってみても、多角的な変化を体験する、ある意味とっておきの世代でもある。だからこそ〝がん〞は、自分とはかけ離れた話のように感じているはずだ。身体的な健康問題を抱えにくい世代でもあるが故に、医療、療養、介護における支援が不足している。

 

がん患者の当事者になって直面する多くは、医療費制度と介護保険制度の谷間の問題だ。特にAYA世代は、就学、就職、出産、育児など大きな困難を抱えているのだが、経済的な支援、助成制度が乏しい。数字にするとわずかな割合に思えるかもしれないが、この国のどこかでは、この実情に直面している当事者がいる。そして、当事者の家族や周囲で寄り添う人々へ、このありのままの映像からメッセージを伝える。

 

 

「ケアを紡いで」
鈴木ゆずな、西川彩花、沼里春花、野村将和、谷口真知子、監督:大宮浩一、企画:鈴木ゆずな、制作:片野仁志大宮浩一、撮影:田中圭、編集:遠山慎二、整音:石垣哲、2022年/89分/日本/ドキュメンタリー©、大宮映像製作所
2023年4月1日(土)より[東京]ポレポレ東中野、4月8日(土)より[大阪]第七藝術劇場、4月14日(金)より[京都]京都シネマ、ほか全国順次公開

 

 

 

看護師の鈴木ゆずなさんは27歳。2020年2月、ステージ4の舌がんと診断され、仕事を休み治療を続ける。その日々の中で受け取った気づきの数々を、言葉にしていく。

 

夫の翔太さんとは学生時代に出会い、20年3月に結婚。治療中に入籍したきっかけは、ゆずなさんが抗がん剤治療を始める前に受精卵を凍結しようと決めたため、婚姻関係にならなければいけない理由があったからだ。6月の挙式を契機に、二人はやりたいことを行動に移し、登山や旅を楽しんだ。コロナ対策を徹底し、仕事仲間とも集まった。しかし、根治は臨めない状況へ陥り、将来を見通す友人たちとの隔絶感を抱く。

 

先輩看護師の西川彩花さんは、AYA世代の経済的な助成制度を活用した課題解決を探り始めた。転職先の上司などの協力を得ながら、ゆずなさんが暮らす三郷市の制度や支援の可能性に奔走した。そこでつながったのが、「地域で共に生きるナノ」だった。

障がいの種類や年齢、性別の区別なく、安心して集える居場所を提供していた。翔太さんの留守中、体調の急変が起きた時の不安を抱えていた2人に安心できる居場所ができた。さらに、ナノ理事長・谷口眞知子さんは、精神障害者保健福祉手帳を取得できるよう手配し、医療費は無料、身体介護付きの家事援助、通院援助なども受けられることになった。

 

 

これは西川さんが具体的な一歩を踏み出した行動から始まり、ナノから市の行政への働きかけ、三郷市の裁量で幅を持った行政対応により実現できた。だが、多くの地域の現状は難しい。

 

 

 

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

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