【書評】寿命が尽きる2年前 /評:浅川澄一氏

2023年4月23日

寿命が尽きる2年前
久坂部羊著
幻冬舎
900円(税別)

 

 

 

 

著者は67歳の医師。医療界への提言を続けながら、「廃用身」「破裂」「悪医」などの医療小説でも評価が高い。

 

本書の半年前に「人はどう死ぬのか」が発行され、日本人の「死の絶対否定」や延命治療に疑問を投げかけたばかり。以前から死についての論考を重ねてきた著者が、今回は具体的に「2年前」と時限を切っての提言である。

 

 

死が目前に迫った時に、先進医療に頼るのか、好きなことを楽しむかの選択を迫られる、と問う。著者は「医療に近付かないことがいい」と主張し、後者を選ぶべきだと言う。

 

現実は、日本人の死亡場所のうち7割近くは病院である。まだまだ「医療信仰」が根強い。それでいいのか、と読者に迫る。

 

 

著者は多くの死に際を看てきた体験から、死の2年前になったらやり残したことを楽しめと強調する。しかも、節制を止め、暴飲暴食を解禁、健康体操や健康情報も不要と説く。そうすれば「晴れ晴れとした気持ちになる」と言う。

 

黒澤明監督の名作「生きる」は好例だとあげる。胃がん末期の市役所職員が住民のために小公園づくりに奔走する話である。死を意識して初めて、職員は生きている実感を得られる仕事を見出す。

 

日本でそのリメイク、英国版の「生きる-LIVING」がちょうど上映中だ。英国在住のノーベル賞受賞作家、カズオ・イシグロが新たに脚本を起こした。

 

 

老いに歯向かう内外の所説にも反論し、「老いと闘うな」とも呼びかける。「死に対して医療は無力」と言い切る。長生きをしたいと望む気持ちは「未熟な欲求」で、アンチエイジングは子供がおもちゃを欲しがるのと同じだと断言。

 

健康とお金はよく似ているともいう。手段が目的にすり代わってしまうからだ。ある程度のお金に満足し、ある年齢に達したら十分生きたと満足すべき、と訴える。麻酔科医だった父親から学んだ言葉も披露。「少欲知足」「無為自然」などだ。

著者が出会った水木しげるや写真家で映画監督のレニ・リーフェンシュタールとの会話のやり取りが持論を支える。

 

 

著者は、死を頻繁に考えていたら慣れてきて恐怖が薄れた、と自身の気持ちを伝える。医療信仰を断ち切るには、個々人の死への向き合いにかかっているようだ。

 

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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