コロナ禍の影響/女優・介護士 北原佐和子氏

2023年4月30日

 

身体と心、人間関係にも暗い影

 

 

新型コロナウイルス感染症。国内では2020年1月に最初の感染者が確認され、同年5月までに46都道府県で合計1万5854人が感染し、668人が亡くなった。この3年余りの歳月で、どれほど寂しく切ない別れがあったのだろう。本来なら大切な家族、知人や友人との別れは日本の風習に習った形式を経て辛い別れとの心の整理をつけていくように思う。だがこの数年のコロナ禍ではそれすらもままならない、最後のお別れを余儀なくされた。

 

 

先日会った友人のお父様は、何かの拍子に転倒して腰を痛めた。あまりの激痛で数日後に緊急搬送され、骨折の診断を受けた。でも、「ベッドに空きが無く入院はできません。コルセットをしてご自宅で療養してください」と帰された。ところが、自宅ではコルセットの圧迫があまりに辛く自身で外してしまう。お母様がコルセットを装着しないと治らないと伝えるとその時は着けるものの、やはり苦しさを感じてすぐに外してしまう。

 

元は自営業の職人で数年前まで仕事をしていて、辞めても外に散歩に出たり、日々活動的に過ごしていた方だった。骨折後から、家どころか自室からも出なくなり同時に意欲も低下してしまった。

 

その夫を「この人骨折してから何もしないで自室に閉じこもっているのよ。本当に嫌になっちゃって」と強い口調で友人のお母様は言う。その横で小さくなるお父様。確かに久しぶりにお会いしたお父様は、前傾姿勢で腰をかがめていて、表情も以前のような嬉々としたものが見られない。腰の痛みはどうですか?と尋ねると「とても痛くてね。何もする気がおきなくて、部屋から出る気になれない」という。病院という治療を強いられた環境なら否が応でもコルセット装着を強要されるだろう。だが自宅では自己管理。かつ痛みが伴うとなれば、思わず外してしまう気持ちも理解できる。

 

 

この数年間のコロナ禍で適切な治療を受けられないまま、廃用症候群となり、そこから家族の関係性まで悪化するなどの話をよく聞く。その日は痛みを我慢してたのか、私がお邪魔している間はお父様が自室から出て話に参加していてくれ、久しぶりに両親の笑顔に触れた、という友人の言葉で少しホッとした。

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

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