当事者主体で社会を変える/公益財団法人共用品推進機構 星川安之氏
JR西荻窪駅南口を出るとすぐに花壇がある。20年前、空き地だったこの場所を花壇にしたのは、駅前で35年以上履物屋業に精を出してきた土屋嶺子さん。
彼女が自身の目の異変に気付いたのは、下駄の鼻緒にピンクを付けたつもりが「おばさん、これ黄色だよ」と言われたとき。眼科に行くと「網膜色素変性症」と診断された。色の区別がつきづらく、徐々に視力が低下していくこと、今現在治療方法はないことが告げられた。
診断を受けた彼女は「日本網膜色素変性症協会(JRPS)」に入会。当事者がどんな不便を抱えているかを学んだ。外出しなくなった人、気力を失ってしまった人もいる。しかしできないことではなく、できることを考えようと彼女はダンス、歌、陶芸など次々と挑んでいった。自身が挑戦し「これはいける!」と思ったものは網膜色素変性症の人たちを誘い、誰もが参加できる仕組みを作った。
活動には移動がつきもの。移動していると、視覚障害者にとって、危険な場所があることにも気づいた。駅の階段の段鼻が分からないと、踏み外し大けがをする可能性がある。彼女の、「黒い淵のある黄色のテープを階段の段鼻に貼ってほしい」という理路整然とした訴えは関係者の心を動かし、2007年には多くの駅の階段にテープが付くようになった。
そんな彼女の頭の中には地図があり、地元では一人歩きをすることが多い。しかし、工事中や普段と様子が違うところを歩いていると、必ず誰かが声をかけてくれると言う。彼女が他人のために行っている活動を見守る街の人たちの眼差しは暖かい。

土屋さんが手掛ける花壇
冒頭の花壇は、目の見えない彼女からそんな街の人たちへの「いつも、ありがとう」のメッセージでもある。
星川 安之氏(ほしかわ やすゆき)
公益財団法人共用品推進機構 専務理事
年齢の高低、障害の有無に関わらず、より多くの人が使える製品・サービスを、「共用品・共用サービス」と名付け、その普及活動を、玩具からはじめ、多くの業界並びに海外にも普及活動を行っている。著書に「共用品という思想」岩波書店 後藤芳一・星川安之共著他多数