在宅心療内科を強化 1年間で患者数20倍 医療法人生樹会渡辺病院
大阪市西成区の医療法人生樹会渡辺病院は、心療内科と内科がメイン。昨年春より在宅医療に本腰を入れて取り組んでおり、1年間で患者数を約20倍に伸ばしている。今後の展望などについて話を聞いた。
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加茂昌輝副理事長(左)と在宅支援課今野久美主任(右)
休眠した病院承継して開業
同病院は南海・大阪メトロ天下茶屋駅から徒歩9分。ベッド数は50。もともとこの場所には1971年から他法人が運営する病院があったが、理事長の体調問題などから休院していた。正式に廃院しようとしたときに、区から「地域の病床が減るのは困る。新たな運営先を募集するなど、何らかの手を打って欲しい」と要望があった。そこで、心療内科医である現理事長が病院を承継し、2017年4月に再開院したという経緯がある。
旧病院は外科がメインだったが、「天下茶屋駅周辺は住民の高齢化率60%以上」(加茂昌輝副理事長)とも言われることから、地域の医療ニーズに応じて承継の翌年には老年内科を開始、4年前には在宅医療を開始している。また、玄関まわりを中心に建物を改修し、「来院しやすい雰囲気」をつくった。
「当初は、退院した入院患者の支援として在宅医療を提供していたので、患者数は10数名程度でした。昨年より周辺の介護事業者などとのネットワーク強化を図った結果、約200名にまで患者が増えました」(加茂副理事長)
約半数が高齢者住宅入居者 入居相談事業者と連携促進
そのうち半数が高齢者住宅の入居者。患者数増加に対応するため、4月から在宅担当医を1名増員して3名体制にしている。
ここまで在宅医療患者が増えた原因について、同病院では
①心療内科の在宅医療は、報酬が低いことから手掛ける医師が少ない
②心療内科と精神科の両方で在宅医療に対応できる医療機関が少ない
の2点から「市場には潜在的なニーズが多いにもかかわらず、それに応じられていないのではないか」と分析している。多くのニーズに対応するため訪問範囲は半径16キロメートルぎりぎりまで対応。吹田市の江坂や羽曳野市まで訪問することもある。
心療内科を受診する人は、心が不健康な状態であるが身体的には全く健康なケースがほとんど。従って、在宅医療で症状が改善すれば普通に日常生活を送ることが可能になる。実際に、在宅医療を受けていた患者がある程度回復して外来通院に切り替えるケースも多く、病院の外来患者数は新型コロナウイルス感染症が拡大する以前の2.8倍にまで増加しており、在宅医療の強化が病院全体の収益力向上にもつながっている。

病院外観
浪速区・東大阪でクリニック開設
今後については以下のような方針を掲げている。
まずは、在宅医療の強化。心療内科・精神科で訪問した患者の内科に関するニーズにも応じられるように内科医を増員するとともに、心療内科医・精神科医の内科に関する知識の強化を図り、訪問時にある程度の対応ができるようにする方針だ。
高齢者住宅との関係強化にも力を入れる。精神疾患を持つ人を断る高齢者住宅も多いが、在宅医療が適切に関わることで高齢者住宅での生活が可能になれば、入居対象者が広がり、入居率の上昇が期待できる。
「病院が直接アプローチすることを好まない高齢者住宅も多いので、高齢者住宅入居相談事業者との関係づくりにも力を入れています」(在宅支援課今野久美主任)
そして、拠点の新設など。同法人では渡辺病院の近くでもう1ヵ所浦上病院を経営しているが、5月よりこちらで訪問リハビリテーションを本格的にスタートさせる。
また、今年中には大阪市浪速区にサテライトクリニックを開設する予定。さらに25年には、東大阪市の布施にクリニックを開設する計画。布施では高齢者施設の開設も予定している。