【トップインタビュー】“職員の幸福度高める“DX 離職率4%、求人待ちも/社会福祉法人スマイリング・パーク 山田一久理事長

2023年4月19日

 

※本記事(4月19日号20面掲載)内において誤りがありましたため、該当部分を修正して掲載しております。お詫び申し上げます。

 

 

宮崎県都城市を中心に、子育てから障害者福祉、介護事業まで全58事業所(2022年3月時点)を展開する社会福祉法人スマイリング・パーク。「職員の幸福度を高める」ことをテーマに、11年よりICT化などの業務改革に大きく舵を切り、事業を拡大してきたのが山田一久理事長だ。

 

 

社会福祉法人スマイリング・パーク
山田一久理事長

 

 

 

AI車椅子で利用者笑顔に ICT導入 より良い製品を

 

公益社団法人全国老人福祉施設協議会のロボット・ICT推進委員会では、副委員長も務める山田理事長。現在「離職率は平均4%、求人は常に順番待ち」と人材不足とは無縁に見える同法人だが、業務改革を行う以前は離職率が25%に達するような状況であったという。「理想に向かうためにまず取り組むべきは環境整備であり、これは経営者の仕事だ」として、「人×システム」を前提としたICT化に着手した。

 

 

最初に行ったのは介護記録の電子化。機能や使い勝手が不十分であったシステムから「ほのぼの」に変更した。職員はiPhoneで記入できる上、AI記録や音声入力、一括入力も可能になった。中でも音声入力については、同システムに最初から搭載されていた訳ではない。山田理事長がメーカーに掛け合い、介護業界の専門用語などもAIに学習させた結果、業界初の試みとなった音声入力支援機能の開発に繋がったものだ。「ICT化を進める際、介護職員には活用に苦手意識を持つ人も少なくなかったが、音声入力はこうした人との親和性も高かった」(山田理事長)

 

転記不要で他職員と情報共有できることに加えて電子署名機能も搭載されているため、ペーパーレス化にも寄与した。現在は「ケアカルテ」に変更。法人内の介護・障害事業42事業所で活用中という。

 

 

山田理事長は「国内で見ると、人材不足は加速の一途をたどっており、コロナ禍もあって外国人人材の入国も進んでいない。そのような中で職員の負担軽減とともに今後もサービスの質を維持するにあたり、介護ロボットやICTの活用は不可欠だ」と先を見据える。

 

20年には、AI搭載の自動運転車椅子も導入した。久留米工業大学の東大輔教授、NTTドコモらと共同開発したもので、利用者は車椅子に設置したスマートフォンに行先を話しかけるだけで目的の場所へ到着できる。体力的に自走が難しい人も職員の手を借りることなく移動ができるため、生活意欲が高まり笑顔も増えたという。

 

 

ネコ型配膳ロボット「ベラボット」も活用。食事だけでなく、 日用品やリネンを運ぶなどの役割も担う

 

 

 

また、ナースコールはジーコム社の「ココヘルパ」を5施設で導入。ICTの積極導入におけるキーコンテンツは「無線」と「スマホ」だ。ココヘルパをコアシステムとして見守りや介護記録システムとの連携を図り、間接業務の軽減に取り組んできた。呼出ボタンが押された時のみ、映像と会話で入居者の状態把握ができる点も尊厳の保持に寄与しており、夜間業務の効率化にも役立っている。現在は同社のケアコールシステム「カコロ」も導入に向け検証中だ。

 

「介護ソフトやシステムを切り替えたくとも、5年契約などの縛りにとらわれる事業者は多い。しかし、より良い製品を活用し環境整備をしていかなくては、ICT導入の意味がない」と山田理事長は語る。

 

 

さらに現在、慶應義塾大学理工学部の満倉靖恵教授、電通サイエンスジャムとともに連携を強化しているのが「ケア・コミュニケーター」の開発。脳波を読み取ることで、利用者の「好き」「嫌い」「興味・関心」などの感情を把握できる機器だ。認知症の利用者とのコミュニケーションにおける、職員の不安や心理的負担の軽減に向けたアプローチに繋がる。

「利用者の気持ちがわかることは、職員にとって『喜ばれている』と思える根拠となる。これを実感できることは、より質の高いケアの提供につながる」(山田理事長)

 

 

これまで、数多くの介護ロボット、ICTを実証・導入してきたスマイリング・パーク。同法人では今後も「職員の幸福度を高める」ため、先駆的にDXに取り組んでいく考えだ。

 

 

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