【行政の指導・監督緊急事業者アンケート】<事業者の声> 弁護士通じ、行政に主張
行政調査について、調査を受ける事業者の立場ではどのようなことが想定されるのか。実際に内部通報により監査が行われ、「虐待の疑いがある」と判断された、都内のグループホーム事業者に詳しく話を聞いた。
材料不明瞭な「虐待疑い」や不適切発言受け
同施設では、職員により「ターミナル期で寝たきりの利用者に虐待が行われている」と通報された。具体的には、当該利用者に対する食事介助について。
ペースト食を全量摂取でき、嚥下状態にも問題はないが、新型コロナウイルス感染による発熱の影響で口が開きにくくなっていた。スプーンの先で唇に触れると刺激で口が開くためそのように対応していたが、これを「無理にこじ開けて食べさせている」と感じた職員による通報だ。「口への刺激で食事を促す対応について、利用者家族とは共有していました。一時的な対応と捉えケアプランなどの記録に連動させられていなかったことが落ち度でした」と管理者は話す。
同施設では、虐待に準ずること、虐待に発展する可能性のあることについては不適切ケアの段階から指導に入っている。本件では、通報者本人を取り巻く人間関係のこじれなどが背景にあり、「利用者のためというよりも、不満を抱えて腹いせに通報した」と感じられたという。現に、通報者本人以外の職員には虐待と感じる人はいなかった。
複数事業所を展開する同社では本件以前にも、個人の介護観を実際のケアに反映できないといった不満から、行政に報告するような職員がいた。しかし行政が第三者として介入することで、逆に「虐待はない」と示され、問題が収束することもあったという。
一方本件では、行政による調査・確認の内容が丁寧でなかった。明らかに介護施設への調査に不慣れな担当者が訪れ、形式的にチェックを実施。判断材料が不明瞭なまま「虐待の疑いがある」と判断されてしまったのだ。
「母体の事業所数も多くなく、日常的に実地指導が行われている施設でもありません。そうした中で、通報者の情報だけを鵜呑みにしないための調査方法がとられることはなく、他市町村で過去に受けた調査とは大きく違いました」と管理者は語る。
「虐待がある」前提の調査が行われ、現場に1人しか残さずに職員を拘束し、職員1名に対し2名で尋問する。どのような聞き取りを行ったかについては明かさず、職員側の返答のみを伝えられる。「利用者を守るため」との目的は感じられず、「誘導尋問のように感じられて悔しかった。見下されているような印象だった」という。管理者は「『介護保険制度の下で事業を運営しているのだから、黙って言うことを聞いていればいい』といったあまりに不適切な発言も受けました」と打ち明ける。
「こうした対応では、財産である職員が、疑われたトラウマから離職につながるリスクもあります」と管理者。同施設では弁護士を通じて話したことで、行政の態度が変わり対話ができるようになったという。開示請求により、聞き取りの記録をしっかり残すなど対応も変わった。
しかし、出された結論は変わらない。主張も「反論」とみなされるため、多くの事業所では減算を恐れて大人しく従うところが多いと聞く。他方で、疑われた職員にとっては、上司が「虐待などしていない」と主張してくれることは、働き続ける理由にもなるだろう。