介護事業者の「成果生む自社サイト」戦略 3社の事例から
【顧客・求職者に訴求】
“会社の顔”であるWebサイト。各社が力を注いで構築している一方、「良い制作会社や相場がわからない」「情報を追加し過ぎて見づらい」「もっと洗練されたデザインにしたい」という声も聞かれる。中にはまだサイトを設けていない事業者も見受けられる。成果を出すサイトはどういったものか。ここでは、サイト改修によって入居者・職員の獲得につなげている事例や自社のブランディング力を高めている事例を紹介する。
【ケース1】年間35名の職員応募 新卒採用に成功 でぃぐにてぃ
重度訪問介護・訪問介護事業などを行うでぃぐにてぃ(東京都新宿区)。約20名の法人規模でありながら、特徴である「訪問×障害×若手職員×東京」を掛け合わせたポジション戦略で、差別化を図るサイトを制作。人材紹介会社を使用せず毎年3~5名の新卒採用に成功している。

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改修に着手したのは6年程前で、職員数は4~5人、売上規模約3000万円だった頃。さらなる資本を生むには、より人材を確保すべき段階にきていたという。吉田真一社長は「求職者が必ず見るため、サイトに注力することが人材確保の近道と考えた。100万円を投じ、過去に約20万円で制作したサイトを一から再構築した」と話す。好みの他社サイトを見て問い合わせ、そこに携わった採用コンサル会社に依頼。約1年をかけて制作した。

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採用ターゲットを新卒・第2新卒に絞り込み、「若い職員が多いこと」「自由度が高いこと」を打ち出す方針を立てた。特に訪問事業はサービスの中身を写真などで伝えづらい分、社長や職員の顔写真を積極的に掲載。自由度の高さを表現するため躍動感ある写真の使用や動きのあるトーン&マナーを意識している。興味を持ってくれた人への仕掛けとして、「でぃぐツアー」と称した見学会をサイトで打ち出している。常時開催しており、この2年間で約30名の見学申し込みがあった。SNS発信に尽力していることも功奏し、昨年は35名の求人応募があり、5名採用に至ったという。
「サイト制作はまずブランディング戦略から始まる。小規模法人は大手と戦略を変えなくてはいけない。“平均点”ではなく“一点突破で印象に残る”サイトを目指している」(吉田社長)

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【ケース2】ユーザビリティ向上 特色伝える細やかな配慮 プラウドライフ
「はなことば」シリーズの有料老人ホームなどを展開するプラウドライフ(川崎市)は、2017年のソニー・ライフケアグループ入りを機にサイトをリニューアルした。
ホームのサービス、スタッフ採用、コーポレートの3つのサイトを構築。社内各部署からメンバーを集い、プロジェクトを立ち上げ推進した。トータルのサイト構築費は約1000万円。特にホームサービスのサイトにおいては、ユーザビリティの向上を目的とし、入居検討者の欲しい情報がすぐ手に入る構成にこだわった。トップ画面の上部に固定表示するタブは、「ホーム検索」「料金表」などの7つに絞った。「改修前は複雑かつ情報過多だったが、情報整理とフォルダ構造の簡素化でサイト内の回遊率向上を図っている」と峰山正樹取締役。

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ソニーグループではサイトにおけるユニバーサルデザインの規定を設けており、▽文字サイズを拡大できるタブをトップページに表示する▽色覚に障害がある人も見やすい配色にする▽タブにアイコンを添えて視認性を高める――など細やかな配慮を盛り込んでいる。

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特に注力したのが、「入居者に寄り添う現場の温度感」を伝えること。ホームの特長を大きく明示し、写真を多用。VR映像も活用し、見学に行かなくても雰囲気が伝わるようにした。
また、サイト構築のプロセスでは現場職員の声に耳を傾けた。見学時に寄せられる質問を生活相談員から集約し、「よくあるご質問」のページでカテゴリー別にわかりやすく表示。また、各ホーム長がスタッフとともに特色を表すキャッチコピーを考えた。「サイトは顧客とつながり、ファンを生むツール。当社の特長やポリシーを対外的に訴求することで、職員の意識や士気も向上する副次的効果もある」(細井幹郎部長)

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【ケース3】PV数5倍、資料請求2倍に コンバージョン率高める 共立メンテナンス
「ドーミー」シリーズの有老などを展開する共立メンテナンス(東京都千代田区)。サービス内容のさらなる具現化と、紹介会社に頼り切らず自社サイトからの直接問い合わせ増加を目指し、約300万円を投じて4年程前に施設サイトを改修した。改修前と比較し、現在の年間PV数は約5倍の13.9万回、月間資料請求数は約2倍の17~18件。1施設の月間平均見学数は約5件と、着実に見学・入居へとつなげている。それらコンバージョン率を高めるため、「欲しい情報をユーザーがスピーディに手に入るようにすること・施設の強みを出すことに着目した」とシニアライフ事業本部営業部の岩井翔平リーダー。
改修前は類似情報が複数ページに散在していたが、各施設の紹介は1ページにまとめた。上部に固定表示する「交通案内」などアイコンをクリックすれば自動でその箇所にスクロールされるよう工夫している。資料請求は「1分かんたん入力!」とすぐに申し込みができることを強調している。ほか、入力項目は極力少なくする、施設の名前は入力済みにしておく、住所は郵便番号を記入すれば自動入力できるようにするなど配慮。請求率を高め、ページからの離脱を防いでいる。

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同社の強みは「食事」。主事業であるホテル事業で培った食事のこだわりを知ってもらうため「食事付きの見学会」を特色とし、サイトでもトップページ上部に記載する。また、各施設ページをスクロールすると食事付き見学会の案内のポップアップを表示して必ず目に入るようアピール。加えて、「ドーミーインのホテル会社が運営している施設」と認識してもらうため、食事案内の上部に運営会社の紹介を位置付けた。

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さらにSNS発信も重点化。資料請求数が最近増えているというFacebookのフォロワーは2300人以上だ。YouTubeやLINE、メールマガジンなども活用し、入居検討者向けに役立つ情報を発信。LINEを通じた入居相談も好評で、入居検討者と信頼関係を構築している。「SNSなどはライトな客層を増やす『種まき』、公式サイトは見学・入居につなげる『刈り取り』の位置付け。定期的にそれぞれを更新、アップデートしていくことが実を結ぶ」(岩井リーダー)

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【制作会社の視点】「ユーザー視点」養う法人が勝つ

スカイプレジャー
石橋拓也社長
当社は、総合広告代理店として医療・介護事業者の中小企業を中心にブランディングからロゴ制作、写真撮影、SNS発信、サイト制作など幅広く行っている。介護事業者のサイトは300以上手掛けてきた。制作費用は30万~200万円と幅広く、制作期間も3ヵ月~1年とさまざまだ。
サイト制作はブランディングに一から取り組む好機。コンセプト策定のためにヒアリングする際、「うちの法人に大きな特徴はなく、当たり前のことしかしていない」と言う事業者もいる。しかし事業を始めたストーリーはどの法人にもあるはず。そこから根底の個性や強み(USP)を引き出す過程を大事にしている。
人材確保に頭を抱える事業者が多い一方、サイトに募集要項しか書いていない法人も見受けられる。そういった法人はまず、
▽コンセプト・理念
▽具体的なサービスの在り方
▽キャリアの描き方
▽福利厚生▽現場の雰囲気
――のポイントを押さえて記載すると良い。
「求職者がどんなことを考えて就職活動をしているか」という「ユーザー視点」は最も重要。求職者は不安を抱えて職を探しているもの。福利厚生や土日休みを前面に打ち出す、どんな職員が働いているかをインタビュー動画で紹介するなどの工夫で採用を成功させている事例もある。
SEO対策については、検索キーワードをやたらに並べればいいというものではない。Googleが「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」と言っているように、ユーザーが求める内容とマッチするコンテンツを追求することが結果的に滞在時間や回遊性を高め、評価される。
そこで当社のクライアントには、ユーザー視点を持ってサイト・SNSの運営ができるよう、「ブランディング委員会」を発足してもらっている。今や法人は戦略的に、チームで、業務として、情報発信を行っていくべき時代。ユーザー視点を日々養っていく法人が勝ち残っていくだろう。