東京都三鷹市、特養転換で家族宿泊可のリハビリ拠点 独自の保険外サービス
東京都三鷹市は2020年に廃止した特別養護老人ホーム「どんぐり山」を改修し、在宅生活を支える拠点施設「三鷹市福祉Laboどんぐり山」を12月に新規開設する。特徴的なのは宿泊中のリハビリを通じて約1ヵ月以内に在宅復帰を目指す、三鷹市独自の保険外サービス「生活リハビリセンター」を設けること。介護老人保健施設でもなくショートステイでもないこの新サービスへの挑戦に、地域から注目が集まる。

三鷹市 河村孝市長
在宅支援に焦点
指定管理者として特養を運営していた社会福祉法人楽山会と三鷹市は協議の上、特養の転換を決めた。
今後新たな拠点では社会福祉法人三鷹市社会福祉事業団が指定管理者として運営を担う。「施設入居」ではなく「在宅生活」を望む高齢者・家族・介護事業者の支援に焦点を当て、以下の機能を持つことが大きな特徴(図)。
①在宅医療・介護研究センター
②介護人財育成センター
③生活リハビリセンター
「この3本柱を通じ、業種や職種を越えた高齢者福祉の連携拠点として地域課題にアプローチしていく」と河村孝市長は意気込む。

三鷹市の資料をもとに編集部で作成
①在宅医療・介護研究センターでは、企業や大学との協業による研究プロジェクトを推進。研究成果や技術の活用に向けて地域住民や介護事業者に協力を依頼し、社会実装するための橋渡しを行う。ロボットの実証実験など複数のプロジェクトを募り、研修費を補助する計画だ。
②介護人財育成センターでは、介護職員向けのスキルアップ研修、家族介護者向けの講習会を実施。加えて、介護職員初任者研修を修了していなくても介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスに従事できる、一般市民向けの講座も開催する。三鷹市にとっても大きな課題である介護人材の不足に対応すべく、「介護職の専門職としての質向上」「介護の担い手拡大」を図る狙い。研修内容は三鷹市医師会・三鷹市介護保険事業者連絡協議会との連携により作成していく。
注目される③生活リハビリセンターでは、入院中にリハビリが十分に行えない、介護事業所では個人リハビリに時間を割けない、家族への介助指導は行っていない、といった現状の課題に着目。在宅復帰を支援する保険外の独自サービスだ。①の実証フィールドや②の研修の場としての役割も担う。看護師、介護職員、ケアマネジャー、理学療法士を配置し、個別リハビリによって概ね1ヵ月以内に在宅復帰を目指す。家族も宿泊可能である点がポイントで、介助練習も可能。個室にトイレや浴槽、ミニキッチンも完備し、手すりの位置や浴槽の高さなど自宅に近い環境でリハビリを実施する。
対象者は要介護度認定を受けていない人も含め概ね65歳以上の高齢者で定員は7名。料金は、居室使用料1日1800円+サービス費850円(住民課税世帯及び市民以外の場合)。市内の施設利用料を上回らない料金設定としている。食費や日常生活費は実費で、家族の宿泊料はかからない。地域のケアマネと連携し、ケアプランに組み込んでもらうことを想定。自宅での生活に不安がある人の入所も可能だ。
「高齢者にとって一番大事なのは、いかにリハビリをしていくか。ここは最先端の技術を使って前向きにリハビリできる場としていきたい」(河村市長)
なお、現在三鷹市が受付する特養数は11施設。転換前の特養の入居者とスタッフは、市内に特養を新設した法人と協定を締結の上、希望者は移転。ほか、他施設などに移っているという。
三鷹市の高齢化率は2020年時点で21.8%。40年には28.9%に上ると見込まれている。市は在宅生活の推進・支援をより重点化していくべく、23年度の予算では新拠点の改修・運営費に約6億2300万円計上している。都の補助金の活用など財源確保に努めながら、計画的な事業運営をしていく考え。
「市民が住み慣れた地域で暮らし続けていくためには、ネットワークで支える仕組みが必要。市にとっても新たな挑戦となるため、大学教授や在宅医療の医師などをアドバイザーに置きつつ、市民の声に耳を傾けながら共に拠点を作り上げていきたい」と河村市長は展望を語った。