【生産性向上のヒント】現場の「引き算」から始めよ 経営者のコミットが鍵

2023年5月29日

忙しく余力がない、ケアの質が高まらず、収支も悪化し、離職が増え、採用できない――。こういった悪循環に悩む介護経営者は少なくないだろう。これを好循環に変え、付加価値を生み出すための鍵は「引き算にある」とTRAPE(大阪市)の鎌田大啓社長は語る。生産性向上に取り組むポイントを聞いた。

 

 

TRAPE
鎌田大啓社長

 

 

改善は「準備が8割」

 

――TRAPEの事業について
鎌田 同じ悩みを持った経営者が対話し、知見をシェアできる会員制コミュニティ「介護経営者クラブ」の運営や、対話を通した業務改善と人づくりをオンラインで伴走支援する「ソシウェル」などのサービスを提供。総合事業や生産性向上に関する厚生労働省・自治体の事業にも関与している。作業療法士である私の現場・経営経験や金融業界出身の取締役の経験も活かし、介護業界に特化して100社以上サポートしてきた。

 

 

――介護業界における生産性向上の考え方は
鎌田 生産性向上の真の目的は「人づくり」だ。特に介護業界においては「職員が働き甲斐を感じること」「利用者へより良いケアを提供すること」の2つが大きな目的。そういった新たな価値を生むには時間・余力が必要。しかし現場で生まれているのは「忙しさ」であるのが現状だろう。これを変えるには、

 

まずは職員・業務・風土と向き合う「マネジメントの構築」から始め、次の手段として「テクノロジー」を活用するというプロセスを踏む必要がある。

 

 

――マネジメントの構築のポイントは
鎌田 生産性の高い現場をつくるためには、「引き算」から始めること。例えば、いきなり新加算の取得に取り組む、テクノロジーを導入するなどの「足し算」をすると現場は疲弊してしまう。

 

当社が支援する際は、私たちが現場職員と直接話すことはなく、経営層・ミドル層とフルオンライン、高頻度で徹底的に対話する。「現場をどう良くしていきたいか」「それに対する壁は何か」「ではどうしたらいいと思うか」といったコーチング形式で、コミュニケーションを重ねる。そして経営者・ミドル層自身が現場職員・業務と向き合い、自らの手で現場を変える体験をしてもらうことが重要だ。

 

特に経営者のコミットメントは不可欠であり、現場任せでは上手くいかない。経営者が「この委員会に出なくても大丈夫だよ」と声をかけるだけでも引き算は進む。そしてプロジェクトリーダーを孤独にさせないことも鍵となる。リーダーが壁に当たった際、乗り越えられるよう経営者がいかに粘り強くサポートするかが、成功と失敗の分かれ道だ。

 

 

――実際に、どういった手順で生産性向上を進めるのか
鎌田 5ステップで進めていく(表)。強調したいのは「準備が8割」ということ。失敗事例に共通するのは、いきなり④から始めてしまっているケース。いかに①〜③に時間をかけるかが重要だ。

 

「テクノロジーは苦手」という職員も、自身のスマートフォンは使いこなしている。その一方、入浴の記録は手間と感じている││といったことはよくある。つまり大事なのは「業務の意味付け」。「なぜこの業務を行うか」「どこまでアナログで、どこからテクノロジーに任せるか」を整理すると、スムーズに導入できる。

 

 

引用:TRAPE資料

 

 

――テクノロジーの導入が目的化しているケースはよく聞く
鎌田 さらに言えば業務効率、オペレーション変革が目的では楽しくない。介護はクリエイティブな仕事。テクノロジーはもっとワクワクした文脈で介護職と出会うべき。「手段」としてのDXを進め、長寿社会のWell-beingな「人の生き方」を提案していくことが介護の魅力につながる。介護業界はそこに向かっていくべきではないだろうか。

 

 

 

この記事はいかがでしたか?
  • 大変参考になった
  • 参考になった
  • 普通



<スポンサー広告>