〝互助〟支える地域設計 世田谷の団地跡地に特養 社会福祉法人サン・ビジョン 唐澤剛理事長
社会福祉法人サン・ビジョン(名古屋市)は保育から高齢者福祉までを網羅した事業展開で、東海エリアの福祉ニーズに応えてきた。2026年3月には関東初の拠点として、東京都世田谷区の団地跡地で特別養護老人ホーム開設を控える。2年前より法人理事長を務める唐澤剛氏に展望を聞いた。

社会福祉法人サン・ビジョン 唐澤剛理事長
「成長と分配」生むサイクルへ
――法人のこれまでの事業展開について教えてください
唐澤 特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護施設を中心としながらも、サービス付き高齢者向け住宅も多数運営する。地域の高齢者に多様な住まいの選択肢を提示してきた。法人本部がある特養と有料老人ホーム、サ高住が一体となった14階建てのビル「ジョイフル千種」などは、法人の事業展開を象徴する複合型施設といえる。
在宅系から居住系まで、介護以外にも保育事業や地域活性化のための農園運営など、複数の事業を抱える。子どもから高齢者、そして地域全体を巻き込むことで「全世代型地域包括ケア」構築を進めてきた。幅広い年代を対象とすると、働く側も楽しい。このような事業体制は、職員の柔軟な発想や企画を活かしやすい点も良い。

ジョイフル千種
――地域包括ケア構築にあたり重要となることは
唐澤 「全世代」を巻き込むことと考える。高齢者だけではなく、現役世代、母親、子ども、学生など多世代が集まる場所をつくり、人のつながりを創出する。私はよく〝ごちゃまぜ介護〟と表現するが、皆で地域や高齢者を支えていくのが少子高齢化の加速するこれからの時代の介護だ。法人では「全世代型地域包括ケア」をより具現化していきたいと考えている。そこで重要となるのが地域住民の互助の部分。
地域包括ケアには2つの軸がある。縦軸が医療介護連携、横軸が見守りや外出支援など高齢者の日常を支える生活支援サービスとまちづくり。高齢者が地域で孤立せず、安心して暮らすには医療介護が連携するだけでは十分でない。生活支援が行き届くためのコミュニティデザインが重要だ。
――保険外サービスの拡充が肝要ということでしょうか
唐澤 介護をより広い視野で捉える必要がある。介護保険がカバーする部分は全体の一部に過ぎず、そもそも「保険外」という言い方も適切ではない。保険でカバーされない生活関連サービス、周辺サービスをいかに広げるかだ。
――関東初の拠点となる世田谷区のプロジェクトについては
唐澤 東京都住宅供給公社が運営する大蔵団地用地の一部約7.734平米を借り受け、全100床、4階建ての特養を開設する。ショートステイやデイサービス、防災拠点型地域交流スペースなども設ける。来年着工予定。同一敷地内では他法人が障害福祉サービスも展開する。
この土地はもともと34棟の団地があった場所。大蔵団地全体の再生事業の一環として福祉拠点の運営を担うこととなった。当法人にとって、都心部のニーズに触れて事業を見直す良い機会と考えている。
――報酬改定についての考えも教えてください
唐澤 働き手が減少する中、今後LIFE(科学的介護)は国の重要な施策になる。法人でも科学的介護に積極的に取り組んでいきたい。
日本経済では物価と賃金上昇の流れが起きている。サービスの価格が公定化されている介護と、他産業との賃金格差はなかなか縮まらない。日本経済における成長と分配の好循環とともに、この業界で賃金と物価の好循環が生まれるような合理的な制度を求めたい。