【どうなる?認知症基本法】ケアラー支援・身元保証等、官民連携で当事者・家族支える共生社会に

2023年10月16日

 

6月に成立した「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」。この法律の下、認知症の人を含めた国民一人ひとりが共生する、活力ある社会の実現が目指される。9月27日には、岸田文雄総理により認知症と向き合う「『幸齢社会』実現会議」が総理大臣官邸で開催された。「国家プロジェクト」と位置付けられた関係者会議における話し合いの内容を基に、現在の論点を整理する。

 

 

岸田総理、会議立上げ 実態把握・課題整理へ

 

岸田総理が議長を務める「幸齢社会」実現会議には、松野博一内閣官房長官や武見敬三厚生労働大臣ほか国務大臣、共生社会政策を担当する加藤鮎子内閣府特命担当大臣らに加え、構成員として東京都健康長寿医療センター・認知症未来社会創造センター 認知症介護研究・研修東京センターの粟田主一センター長、東京大学大学院医学系研究科の岩坪威教授、公益社団法人認知症の人と家族の会の鎌田松代代表理事、一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループの藤田和子代表理事、フリーアナウンサーの町亞聖氏らが出席。構成員によるプレゼンテーション及び意見交換が行われた。

 

9月25日にアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が正式に薬事承認されたことを受け、岸田総理は「画期的な新薬であり、認知症の治療は新たな時代を迎えた」と言及。治療対象の患者が軽度認知症及び軽度認知障害の人に限られるといった課題を踏まえ「まずは新薬へのアクセスや投与後のモニタリングなどが適切に確保されるよう、必要な検査体制や医療提供体制の整備について厚生労働大臣に検討を進めてもらう」と述べた。

 

治療薬の開発についても、引き続き推進する意向を表明。「国際競争が激化する中、我が国のリードを広げるべく、認知症・脳神経疾患の研究開発イニシアティブについて、健康・医療戦略担当大臣において具体的な検討を進めていきたい」とした。薬価制度の改革も注視する必要がある。

 

 

一方で、「認知症の人を含むすべての人々が共生する社会」が薬のみで実現されるわけではないことは自明だ。会議に出席した認知症当事者や家族らを擁する業界団体などは

▽認知症基本法の周知

▽社会参加・交流の機会創出

▽行政・自治体の施策による支援

▽適切な介護保険サービスの利用促進

▽意思決定支援の仕組みの確立

▽継続的に支援可能な人材の育成

――などの必要性を訴えた。当事者の声に耳を傾けるとともに、行政や専門職、地域住民らが連携して創意工夫を重ね、地域をつくっていかなくてはならない。

 

働きながら家族などを介護する「ビジネスケアラー」の数も2030年にピークを迎える。今年3月に経済産業省が公表した推計によれば、家族介護者833万人のうち、ビジネスケアラーは約4割(318万人)を占めると見られている。家族の介護により就労継続が困難になるケースが社会課題化する一方、家族形態の多様化により、認知症でありながら身寄りのない人や、家族はいるが頼れないという人も増加している。認知症やほかの病気などで判断力が低下した時や亡くなった後の意思決定支援者・実行者の不在も現代の課題といえる。身寄りのない人も安心して老後を迎えられる、家族の全面的な支援を前提としない仕組みの構築・普及といった論点も示された。当事者・家族双方の視点に立った社会的な支援は不可欠だ。

 

岸田総理は「認知症になっても安心できるよう、身元保証などの課題も解決していかなければならない。実態把握と課題の整理を進める」としている。今後、官房長官を中心とした省庁横断の体制構築に向かうとともに、年内にも同会議での意見を取りまとめる意向だ。

 

 

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認知症に「治療」の道
 

認知症の人と家族、支援者で構成される公益社団法人認知症の人と家族の会(京都市)。6月に就任した鎌田松代代表理事は、脳神経内科医である川井元晴理事とともにアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」について解説した。

 

 

公益社団法人認知症の人と家族の会 鎌田松代代表理事

 

 
地域の医療体制構築カギに
 

このほど迅速承認されたレカネマブは、認知症の原因の約7割を占めるアルツハイマー型認知症の治療薬。中でも、軽度認知障害(MCI)から軽度認知症(早期アルツハイマー病)と診断された人のみが対象だ。
 

すでに使われている治療薬は、主に脳内の神経伝達物質に働きかける間接的な治療薬であるのに対し、レカネマブはこれまでの薬とは異なる「抗体治療薬」。アルツハイマー病の原因物質(アミロイドβ)に取り付いて、脳内から除去するものだ。原因物質を取り除き、神経細胞の死滅・脳の萎縮を防ぐことで治療につながると言われている。アルツハイマー病の原因物質に直接作用する薬として、日本で初めての承認となった。
 

副作用はいくらかあるが、特に問題となるのは脳浮腫。脳が腫れてしまい、ひどい場合には脳に出血が起こることもある。治療のイメージとしては、1回1時間程度の静脈注射(点滴)を2週間おきに実施する。5、7、14回目の前にMRIを行い、治療状況や脳浮腫などの様子を見ながら進めていく。適切に対応できる医療機関が必要とされる。
 

これまでの治験の結果から非常に良いデータが集まったことで承認された。しかし、まずは薬剤を使用できる体制づくりが必要。早期発見のための検査体制を構築することが大切だ。また、2週間に1度の点滴のために通院できるか、副反応があった際に対応できるかといった課題には地域の医療体制整備も要する。
 

アメリカではすでに保険適用されているが、費用については標準体重の人で年間380万円程度かかるといわれている。日本における保険適用の下での価格設定は今後検討される。
 

1980年結成の同法人。47都道府県に支部を構え、約1万1000人の会員を擁する。川井理事は「レカネマブはとても期待できる薬。認知症への関心が高まり、早期発見・早期治療に加えて認知症でない人にも良い影響があるだろう。アルツハイマー病以外の認知症に対する治療薬の広がりにも期待したい」と言及。鎌田代表理事は「治らない病気と言われていた認知症に『治療』という道が拓けた。しかし、認知機能の低下を防ぐには、社会的な交流も非常に大事。仲間づくりには一人ひとりの力が必要」と呼びかけた。

 

 

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