【書評】「おひとりさまの老後」が危ない/評:浅川澄一氏

2023年11月9日

上野千鶴子著
高口光子著
集英社
1,100円(税込)

 

 

 

「介護の転換期」の「生産性」とは。

 

「カリスマ介護士」「介護のプロフェッショナル」と言われてきた高口光子さん。理学療法士(PT)として先輩の三好春樹さんとの共著もある。共に「生活リハビリ」を訴え続けている。
 

その「先生」が、自身の「失敗」を含めた体験を率直にありのままに語る。こんなエピソードを明らかにしていいのか、と思わせるようなきわどい話もある。その語りを巧みに引き出したのが上野千鶴子さん。社会学者として高口さんの「事件」を普遍化し、「介護の転換期」と捉える。ユニークな共著である。
 

 

高口さんは昨春まで20年間、大手事業者のスタッフとして5つの老健と特養の運営や立ち上げに関わってきた。その最初の老健で集団処遇から個別ケアへの大改革を実現させる。さすが高口さんと思わせる。「生活リハビリ推進室室長」という肩書だった。
 

ところが、5年後に別施設へ去ると、後任の看護師が効率第一を謳い「ガラガラと崩してしまう」。それもわずか半年で。「ショックだった」と振り返る。
 

聞いていた上野さんは「医療、看護、介護のヒエラルキーの中で看護師の位置取りは大問題」と指摘する。医療モデルと生活モデルの違いなど2人の話はここから介護の本質論に及ぶ。
 

高口さんが築き上げたケア手法が、なぜたやすく壊れたのか。介護の側に欠けていたのは何か。介護関係者に課題を突き付ける。
 

 

もう一つのテーマは監視カメラである。
 

高口さんの所属していた事業者が、新設施設の全居室に監視カメラを備える方針を打ち出し、高口さんが同意しなかった。話し合いの結果、カメラの筒だけ付けることになる。反対論の表明が辞職につながった、と高口さんは話す。
 

上野さんは、権利意識の高い入居者が増える中で事業者にとり「カメラは組織防衛のための必須アイテム」と考える。ICTの導入は時代の流れと説き、どちらかというと前向きな姿勢を示す。
 

人手不足を背景に、経済界や厚労省はICT化を推進し事業者向けに様々な機器の導入があおられている。虐待の証拠としてカメラの存在は大きい。高口さんは、なぜ導入に反対するのか。同調しない上野さんの言葉と合わせて、じっくり考えてみたい。ここでも効率や生産性、組織運営の在り方が問われる。

 

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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