2024年1月3・10日号  35面 掲載

【書評】それでも私は介護の仕事を続けていく/評:浅川澄一氏

2024年1月7日

それでも私は介護の仕事を続けていく
六車由実著
KADOKAWA
1,870円(税込)

 

 

デイサービスで味わう豊かな「関わり」
 

著者は民俗学の研究者である。静岡県沼津市の定員10人の小さなデイサービス「すまいるほーむ」。その管理者兼生活相談員でもある。コロナ禍の中で利用者たちとの関わりを綴ったのが本書。
 

著者の目的ははっきりしている。生産性第一の社会風潮に対して「否を突きつけたいという思い」だ。「ボケたっていいんだよ。安心してボケていいの」と利用者に語りかけ、居場所づくりを目指す。
 

次々と登場する利用者たちは、その性格や趣味、特技、嗜好などが克明に披露される。老いに伴うさまざまな戸惑いや生活のしづらさを丁寧に描写。著者を含めたスタッフたちの対応ぶりに引き込まれる。「生きていることを喜び合う」。ありのままの生の人間関係が蘇る。かつての「宅老所」のよう。
 

意思疎通がうまくいかない場面では、その解決策に普遍的な思考回路が提案される。医師の斉藤環、熊谷晋一郎、哲学者の國分功一郎、認知症当事者の丹野智文など各氏の発言が引用され、いかにも研究者らしい。
 

葛藤する自身を隠さないのが本書のいいところ。認知症が進みトイレの場所が分からなくなった独居高齢者。そんな状況でも施設入居でなく在宅ケアを続けさせたことの良し悪しを自問する。
 

また、突飛な行動で手に負えなくなった認知症の利用者への対応時に、著者自身のトラウマに気付き、正直に周囲に打ち明ける。だが、利用者との関係は築けず、利用を断ることに。その判断がそのまま読者への問いかけにつながる。
 

どんなに難しい事態に陥っても著者の心境は継続性にあるようだ。書名でその覚悟を表す。
 

著者が「まやかし」と怒る介護保険制度の改定にも言及する。デイサービスの入浴介助の加算が50単位から40単位に下げられた一方で、自宅で一人や家族援助で入浴できる計画を策定した場合に55単位が新設された。
 

自立支援の一環とされるが、社会保障費の抑制策に過ぎないと断言する。その通りだ。老いにより自宅入浴が難しいためデイサービスの入浴が頼られている。実態を見れば明らかだと、実例を列挙する。
 

「死に向かって下っていくプロセスの伴走者」と立場をきちんと定義。プロセスの楽しみ方は工夫次第だろう。本書にはその工夫が山のようにある。宝の山ともいえる。

 

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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