2024年3月13日号 10面 掲載
自分を俯瞰する力 その行動は適切か、常に問う/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

この時期、インフルエンザによる学級・学年閉鎖などを例年どおり耳にしている。コロナも一時期に比べると発症者は減少しているものの、施設内でのクラスター発生もなかなか収まらない状況にある。やはり高齢者は、疾患を持っていたり、免疫力が低下していたりすることなどからうつりやすく、発症に至ってしまう。
この時期になると思い出すことがある。ヘルパー2級(現初任者研修)を取得して勤務を始めて間もない頃のこと。若き日の職業は看護師だった、90代後半の利用者。夕食前トイレの声掛けをすると、「私何だか変な感じがするの」と言う。「具合が悪い」「体が熱い」や、「しんどい」などなら、その言葉にピンときて血圧や体温などの測定をしたと思う。だが直後トイレに行き、いつもと同じように自分で手すりにつかまり立ち上がっている。だるい様子も、発熱している様子も見られない。「私何だか変な感じがするの」。その言葉以外は、いつもと変わった様子は何一つなかった。
私は「考えすぎですよ。大丈夫ですよ」と。その場にいたスタッフも「大丈夫ですよ。考えすぎ、考えすぎ」と私と同じことを言う。そのスタッフも気になることはなかったのだ。ほかのスタッフの報告だと、夕食時の様子は「『私何だか変な感じがするの』という言葉に耳を傾けなかったのが気に入らなかったのか表情はご機嫌斜めで、食事も食べ始めようとしない様子が見られた」という。だがそれも少しの間で、その後はいつもと変わらず食事をした。
ところが、この翌日に発熱して体調を崩し、訪問診療の先生の判断でインフルエンザでの入院となった。「私何だか変な感じがするの」。その言葉を発した時点で、私はなぜ真剣に耳を傾け、行動を起こさなかったのだろうか。この経験は、後々までも悔やみ自分を責めた。
私達の仕事は、今の判断・言動は正解か否かを常に冷静に見ること、すなわち自分を俯瞰してみる力が必要だと思う。現場にいると、しなければならない作業に追われて一番大切なことがおろそかになる。俯瞰する力は、利用者との関係に限らず、人間関係でも必要なこと。自分との距離を持ち自分を俯瞰することは、適切な判断や行動につながるのだと思う。

女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」










