2024年10月9日号 15面 掲載
【書評】向かい風を乗りこなせ /評:浅川澄一氏

佐伯美智子著
円窓社
1,800円(税別)

赤ちゃんを看多機の現場に
小規模多機能型居宅介護(小多機)と、訪問看護を加えた看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は介護保険サービスの「優等生」である。十分に使いこなせば中重度者でも在宅生活を長く続けられる。かつての「宅老所」を制度化した在宅重視施策の本命だが、あまり普及していない。
その活用法の核心が伝わっていないためだろう。本書では、ケアの真髄が何かが明かされる。「本人らしい楽しい生活の支援」「暮らしの場づくり」だと再三指摘し、両サービスを通じてどのようにそれらを実現させているかがよく分かる。
著者の佐伯美智子さんは作業療法士(OT)。3児の母でもある。50歳の今、7年前に看多機を立ち上げた時の創業の「決意」を振り返りつつ、それまでの波乱万丈の人生を綴った。
佐伯さんの試みで秀逸なのは「子連れ出勤」「赤ちゃんボランティア」であろう。スタッフに乳幼児連れを奨励するとともに、地域の赤ちゃんをケアの現場に呼び寄せる運動を始めた。
「赤ちゃんが相手だと大人は丸裸にされる。普段あまり笑わないお年寄りもいつの間にか自然に笑っている」「赤ちゃんと認知症のお年寄りは相性がいい」「お年寄りと子供が一緒にいる大きな家にしたい」。そんな熱い思いが語られる。
入浴したがらない利用者が、2歳児の誘いに乗って風呂場に向かうエピソードには思わず膝を打ってしまう。
赤ちゃんケアは、小多機や看多機の訪問時でも実行する。その様子をSNSに投稿すると異論が出て、管轄の唐津市役所に呼び出された。「子連れ労働でいい」と確約を得て、その経緯も叙述される。「包括報酬ならでは」との説明に読者は納得する。
利用者側への思いやりも重要と説く。先回りの「過剰」なケアに陥ることの問題点を突く。新人スタッフにおむつを付けさせ、「不快な実感」を味わってもらう。
OTから介護全般に視野を広げてきた。その歩みの原点は、幼時の対馬での生活体験だという。自然に育まれながらの祖母との暮らしである。
病院や施設での約20年間で垣間見た対極的な「負」の業務体験が起業の背を押したようだ。OTらしからぬ生活リハでの奮闘は「じじばばの遊ばせ屋」と呼ばれたが、異端の称号が今やケアの王道になりつつある。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏








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