2024年11月13日号 8面 掲載
「その人らしい」日々を過ごす 他者との交流と主体性を持つこと/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

講演会で、認知症当事者の丹野智文さんが「デイサービスでしている塗り絵や折り紙を皆さんもしたいと思いますか」と聴衆に問いかけていた。確かに本人が本当にしたいことだろうか、と考えると疑問だ。決して楽しそうには見えない。
私が介護に携わるようになって18年になるが、レクリエーションの内容は丹野さんの言うように以前と変わらないところが多いように思う。そもそもデイではレクをしなければいけないのか……。興味のない人は傾眠しているのに。
それならば、今話題の大谷翔平君の野球中継を見ながら歓声を挙げ一喜一憂するのはどうだろう。大谷君の話に始まり息子や孫の話、幼少期はどんな毎日を過ごしていたのか。回想法を活用したコミュニケーションで、人となりを知り話の輪を広げていく。黙々と何かをする刺激とは別の、他者との交流で受ける刺激を大切に考える。他愛ないやり取りでも、それにより言葉を発する。私たちはその本人の声を聴くことが必要だ。
子どもは1日300~500回笑うそう。それが高齢になると1日1~2回しか笑わない。まず話をする機会が失われていることも要因だと思う。何かをすれば「そんなことして、また忘れたの?」と言われることが増えると自信を失いしゃべりたくなくなる。
私の知るデイ生活維持向上倶楽部「扉」や就労支援デイBLG八王子では、利用者がその日の過ごし方を決める。どちらも私たちが話題を提供する前に、こちらに話題を提供してくれる。利用者が活き活きしている。
「扉」ではホットケーキづくりに精を出す利用者がいる。仲間と形がどうだ、お皿はこれだ、配るときには「俺がつくったんだ旨いぞ」と渡している。その光景に思わず笑ってしまうのだが、本人は真剣そのもの。
また、BLG八王子では食事も自分で決める。お蕎麦やうどんを頼むのか、または外食にするか。帰る前に1日をどんな風に過ごしたか、思い思いの言葉でまとめる。「家にいると奥さんにがみがみ言われる。皆とここに居る時間がとても心地いい」とさっきまでうまく意思疎通の取れなかった人が、活き活きと自分の思いを吐露していた。「その人らしく笑顔多い日々を過ごす」ことを、今一度しっかりと考えなくてはと思う。

女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」「ケアマネ女優の実践ノート」










