2024年11月13日号  15面 掲載

【書評】精神病院・認知症の闇に九人のジャーナリストが迫る /評:浅川澄一氏

2024年11月17日

大熊由紀子編著
ぶどう社
1,600円(税別)

 

 

精神科病院の全貌を解き明かす
 

昨年2月、NHKが東京都八王子市の精神科病院、滝山病院での虐待シーンを放映した。54年前に、朝日新聞の大熊一夫記者が東京近郊の精神科病院に潜入して報じた実態と変わらないことに視聴者は衝撃を受けた。
 

課題を抱え続け、指弾されながら放置されてきた精神科病院。その結果、この半世紀で主要各国の精神科病床が激減している中、日本だけが増加した。本書の裏表紙に描かれたグラフで一目瞭然だ。この「闇」の解明に9人のジャーナリストが集結。日本の精神科病院の全貌を説き明かす意欲的な試みである。
 

滝山病院のスクープ映像を手掛けたNHKディレクターの青山浩平さんと持丸彰子さんをはじめ、日本精神科病院協会の会長に直撃取材した東京新聞の木原育子さん、オンラインで発信後に「ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う」を著した週刊東洋経済編集長の風間直樹さんなどが顔をそろえた。
 

仕掛け人は、元朝日新聞論説委員の大熊由紀子さん。先述のグラフの作成者であり、編著者として「はじめに」と「あとがき」で出版の狙いと北欧発のノーマライゼーションの歴史を丁寧に振り返る。本書は、大熊由紀子さんが毎年主宰する「新たなえにしを結ぶ会」で、昨年9月にメンバーが語った内容に加筆修正したのが大半である。
 

これに加えて、圧巻なのは72歳の元患者、伊藤時男さんの登場だ。38年間も入院していた福島の精神科病院が13年前の原発事故で廃院となり、おかげで今は地域で一人暮らし生活を送る。2人のジャーナリストとの鼎談で過去を思い返し、「患者は人間扱いされなかった」「差別されたよ」との当事者の言葉は重い。
 

だが、異常な世界はそれなりの思惑で支えられているようだ。病院業界トップは「入院することで幸せな生活が得られる」と本気で説く。「深刻な病気」と思い込んで入院を望む家族がいる。実は「症状は一過性で収まる」という叙述が度々出てくるが、その真の姿が如何に伝わり難いかが本書で明かされる。
 

では解決策は何か。結びは、精神科病院を新法で駆逐したイタリア、中でも先頭を走るトリエステの取組みについて現地取材を重ねた大熊一夫さんが届ける。「縛らない」「閉じ込めない」を信条に、グループホームなど小規模な地域施設に変えたという。

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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