2024年12月11日号 12面 掲載
ケアの質を高める ヒントは利用者の声/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

「今日のおやつのお飲み物はコーヒーなのですね」と利用者に声をかけると
「別にお願いしたわけではないけど、いつもこれなの」
「ん?違うものが飲みたいのにいつもコーヒーが決まって出てくるのですか?ブラックですか?」
「砂糖だけは入っているみたいよ。たまには違うものでもいいわよね。初めに飲んだものがこれだからそのままこれなのよね」と言われる。
「確かに、たまには違う物がいいなと思いますよね」
「コーヒーにミルクが入っていたり、他の物でもね……。でも仕方ないのでしょうね」とあきらめ半分の表情で思いを言葉にしてくれた。
自宅にいれば、今日は紅茶が飲みたいわとか、お饅頭だから濃いお茶ねなど、その時の自分の気分で飲み物を準備する。お饅頭だからお茶が飲みたいな、お茶でもお抹茶がいいわね。ケーキなら紅茶、紅茶にミルクは入れる?思いや欲求と同時に出てくるおやつをイメージして何を飲むか自ら考える力も、私たちは奪っているのではないか……。毎回、聞かずに、同じものが出てくるのは考える力も、大切なコミュニケーション、言葉を発するチャンスも奪っていることになる。
先日はこんなことがあった。90代後半の利用者が「こんなもの硬くて食べられないわ。私たちは高齢者なのよ、こんな硬いもの食べられるわけがないじゃない」。すると「それなら残してください」とスタッフは体よく切り返した。ところが「これだって固いわよ。食べるものがないじゃない」と利用者の気持ちは収まらない。
利用者の硬いという鶏肉とレンコンを食べてみると、私にはイイ感じ。レンコンもコリコリ歯ごたえがあり美味しい。そう、それで良いはずはない。たとえいくら自歯で歯がしっかりしているといっても年齢を考えたら私達と同じで良いはずはない。ご自分の歯であっても、歯茎がひずみ、かみ合わせやかみ砕く力、唾液を混ぜ合わせて柔らかくして飲み込みやすいように咀嚼する力は落ちているのだから。
利用者がしっかりと思いを発しているのに、その言葉を私たちは受け止めていないではないか。利用者の声を誠実に受け止めケアに活かすことが、尊厳への一助となり利用者が居心地よく暮らせる、安心した環境への提供につながると思う。

女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」「ケアマネ女優の実践ノート」










