2025年2月12日号  15面 掲載

【書評】透析を止めた日/評:浅川澄一氏

2025年2月16日

 

堀川惠子著
講談社
1,800円(税別)

 

 

 

終末期透析の「明暗」を浮き彫り

 

著者の意気込みに圧倒される。納得のいかない「闇」を解明しようと懸命に追いかける。手練れのノンフィクション作家ならではの傑作である。

 

本書は私事にまつわる憤激が契機となった。尊敬し愛する夫の最期に同伴し、日本式医療がいかに無力かを味わう。その原因が医療制度の「闇」だと突き止める。そのうえで、取り入れるべき治療法を見出し、実践する医師たちを訪ね歩く。

 

著者の夫はNHKテレビのプロデューサー。番組作りの現場では大先輩でもあった。人工透析を10年以上受け続けている。妻として通院に同行し、食事を管理する。夫の体力が透析に追い付けず、苦痛に見舞われ、ついに死を覚悟し透析を止めると宣言。

 

苦痛の解消策として緩和ケア病棟を望むが、「ガン末期とエイズ、心不全しかダメ」と病院から拒絶される。夫が「人生最大の痛み」を訴えるが医療は応えられず、60歳で旅立つ。ここまでの闘病記が第一部である。「平穏な死の選択肢はないのか」と疑問を抱え、透析患者の終末期の取材に入るのが第二部というユニークな構成だ。

 

取材を重ね、腹膜透析の存在にたどり着く。一般的な透析は血液透析である。血液中の老廃物を取り除くために4時間ベッドに張り付き、週3回通い続けるのが血液透析。もうひとつ、腹膜を利用して、本人が自宅で処置できるのが腹膜透析だ。透析液の濃度や回数を調整でき自由度が高い。安らかに死を迎えられる事例が次々叙述される。

 

だが、著者夫妻には、どの医師からも腹膜透析を知らされなかった。その普及率はわずか2.9%。欧州やカナダで2030%。この差はなぜか。

 

血液透析の診療報酬は高額で「10人の透析患者でビルが建つ」と揶揄される、とある。約35万人の患者数をはるかに上回る専用ベッドがあり供給過剰状態。患者を手放したくないから、ベッド不要の腹膜透析には口を閉ざしてしまう。

 

衝撃的なのは、高齢患者が通院できなくなると「永遠の入院透析」になるとの指摘だ。「拘束されてベッドに並ぶ終末期高齢者が死亡するまで透析を受け続けています」と透析技師が実態を語る。「関東地区の病院で取材をすべて断られた」ため、引き出した貴重な証言である。取材力の成果だ。在宅療養がかなわず精神科病院で過ごす認知症の高齢者と重なる。

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

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