2025年6月11日号  15面 掲載

【書評】安楽死の医師/評:浅川澄一氏

2025年6月15日


ジーン・マーモレオ、ジョハンナ・シュネラー著
大和書房
2,400円(税別)

 

 

 

カナダの安楽死を現場から発信

 

2016年6月にカナダで医療行為として安楽死が認められた。世界で初めて合法化したオランダから15年後だ。該当者は1万人を超えオランダより多く、急速に浸透している。著者のマーモレオ医師は当初からリーダーシップを発揮してきたトロント在住のホームドクター(家庭医)である。

 

カナダの安楽死制度は、MAiD(メイド 医療介助死 Medical Assistance in Dying)と称される。治癒が見込めないことや堪えがたい身体的、心理的苦痛の継続など4条件はオランダと大差ない。死後に検死官の了承を得ることも同じだ。

 

著者は、患者に生涯寄り添う医療を目指していたが、病気が悪化すると患者は総合病院や専門医、緩和ケア医に引き継がれ、自身の手を離れてしまっていた。それがMAiDで一変。死を手助けできるようになり、年来の夢が叶う。

 

当時70歳に達していた著者の行動には目を見張ってしまう。自主学習として緩和ケア専門医への研修に赴く。その後、MAiDを望む患者を次々担当、うち7人の介助死体験を濃密に綴ったのが本書である。

 

ALSの高齢者や90歳の女性アーティスト、80歳の筋ジストロフィー患者、68歳の認知症の人などだ。中でも肺の希少難病に悩む女性の医療研究者との交流はとりわけ親密度が深く、死への考察に強く引き込まれる。

 

7人には死に向かう生活の同伴者になる。生きがいや家族関係、人生の価値観、趣味などが詳述される。「患者の心の奥にある動機を理解し、魂の声に耳を傾けなくては」という思いからだ。死の迎え方もきちんと描く。催眠鎮静薬のミタゾラムから始まり筋弛緩薬のロクロニウムまで4種の薬剤の投与過程を明かす。

 

制度の全容把握にも目配りを怠らない。「MAiDの85%が患者と面識がない医師によって行われている」との指摘には驚いた。オランダの安楽死の実行医は馴染みの家庭医が大半なだけに大きな違いだ。カナダではホームドクターがまだ尻込み状態で、MAiD担当医に依存しているのが現実。著者はこの状況を受け入れ難いと残念がる。

 

4条件を緩和した2021年の法改正にも触れ、本人の自己決定が受け入れやすくなったという。患者の尊厳と主体性を重視する医療者の心意気が伝わる好著だ。

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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