2025年7月9日号 6面 掲載
介助式車椅子の利用者/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

うやむやになった「」
ショートステイで利用者本人から相談を受けた。介護者である娘さんの休息を考えて、ショートを活用している方である。活用は本意ではない。利用中に入浴を薦めても、「家に帰ってから入るので滞在中は入浴しません」とはっきり言う。
面会に行くと、部屋で休んでいた。「今からおやつなのでフロアに行きたい」と言い、車椅子を押して食堂へお連れする。するとこんな話を聞いた。昨日、食事を終えて部屋に戻りたいとスタッフに言ったら、「少し待って」と言われたので待っていた。今度は戻ってきたスタッフに「自分で帰って」と言われたそうだ。
「そう言われても、この車椅子は押してもらうしかない。でも、あれなら……」と近くにいる利用者の車椅子を見つめる。車椅子には自走式と介助式があるが、近くにいるその方は自走式を使用していた。「あの車椅子なら自分で動かせるので、押してもらうために待たずとも自分で部屋へ自由に帰れるのよね」と仰る。人に気兼ねなく行動できると考えて、自分なりの提案をされたのだ。この方はショートの利用が本意でないとしても、娘さんの気持ちを考えて毎月利用している。施設内で忙しそうにしているスタッフの様子を見れば、必要以上にスタッフに負担をかけたくないと思い、「自室に戻りたい」と声をかけるのにも躊躇する方なのだと思う。
「自走式はタイプによっては少し重さもあり、動かすのは大変かもしれませんが、まずは一度試してみますか」と伝えると、「はい」と希望に満ちた表情で答えた。私もその方同様、希望に満ち、先輩に相談をした。するとその先輩は、本人に聞き取り後、スタッフ達に状況と本人の気持ちを伝えた。すると「少し待ってもらうことはあると思いますが、きちんと対応します」という結論になり、「今までと変わらず」と話は収まった。
先輩の経験から、自走式の車椅子の操作は難しく、ADLの状況から考え不可能だと判断したのだとも理解する。だが、本人の自己決定、決定権は一体どこに。本人に体験してもらうことで納得でき、自分の今できることと向き合い、落とし込みができたところで納得して待つことができるのではないか、と考えるのだが。

女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」「ケアマネ女優の実践ノート」







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