2025年9月10日号
【書評】介護保険は崖っぷち/評:浅川澄一氏

上野千鶴子・樋口恵子・ケア社会をつくる会 編
岩波ブックレット
858円(税込)

論者たちが糾弾する制度変容
介護保険制度は26年目を迎えて定着し評価も高い。だが、利用者増に見合う担い手と費用の不足の対策として厚労省は介護サービスの縮減と利用者負担を求めだした。とりわけ、昨年4月からの訪問介護の報酬切り下げは在宅介護にダメージを与えている。
本書は30人近い筆者が列なる。昨年9月に開いた8時間にも及ぶシンポジウム「こんなはずじゃなかった、介護保険」の記録を基に編集した。編者は同シンポの主宰者たちだ。社会学者の上野千鶴子さん、「高齢社会をよくする女性の会」名誉理事長の樋口恵子さん、それに「ケア社会をつくる会」世話人の中澤まゆみさんと小島美里さん。
登場するのは袖井孝子さん、服部万里子さん、権丈善一さん、大熊由紀子さんなどの研究者や柳本文貴さん、石井英寿さん、坂野悠己さんなど介護事業者、それに「認知症の人と家族の会」の幹部などが顔を揃える。
介護保険の変貌ぶりやそれによって起きた利用者と事業者の苦境が多くの視点から伝えられる。
中で「介護保険制度の功罪」と題した小竹雅子さんの論考が印象に強く残った。小竹さんは市民活動家で厚労省審議会の傍聴を続け電話相談も受けてきた。「訪問介護の抑制が働く介護家族の離職を促している」と指摘。
また健康寿命の延伸に旗を振る政府にも苦言を呈し「健康であれと鼓舞することは、病気や障害、認知症などのある人たちを排除」しかねないとも批判。
これら一連の課題は「負担と給付」、即ち財源問題に帰着する。本書巻末には6項目の要求を掲げたシンポの声明文が掲載され、「財源の公費負担割合を増やす」とある。本文中でも埼玉大学教授の高端正幸さんが「制度の目的を実現するには社会保険ではなく税の方が適切」「税方式にシフトしていく方向が望ましい」と主張する。
だが本書冒頭で、税ではなく「保険料で」と断言するのは元厚労省官僚の香取照幸さんである。介護保険の基本と言われる「負担と給付の枠組み」にこだわるからだ。
「被保険者以外のお金も含まれる税で補填するのではなく」と持論を展開する。
制度設計時にYKKと呼ばれた立役者が3人いるが、香取さんはその一人。財源は制度の根幹にかかわること。双方の違いについての徹底した議論が望まれる。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏










