2026年3月4日号 終面 掲載
【特別寄稿 ニッセイ基礎研究所/三原岳上席研究員】与党大勝後の介護・医療改革は?~2つの視座で読み解く今後の展望~
2月8日投開票の総選挙では、自民党、日本維新の会(維新)が大勝を収め、昨年10月に発足した高市早苗政権は国民の信任を得た。しかも、今回の総選挙では、与党幹部にも相談しないまま、首相が解散を独断で決めるなど異例の展開となり、首相の求心力が高まったと言える。このため、18日から始まった第2次政権では「高市カラー」が前面に掲げられる可能性がある。しかし、参院で過半数を得ていないなど、政権の先行きは不透明だ。本稿では「参院の状況」「維新との政策協議」という2つの視座で、介護・医療改革の展望を試みる。

ニッセイ基礎研究所 三原岳上席研究員
◇3分の2以上を取ったが…。
議論を始める前に国会の勢力図を整理する(18日の特別国会開会時点、議長・副議長は無所属、以下は全て同じ)。予算審議などで優越権を持つ衆院では、自民が316議席を占め、単独で3分の2以上を有している。さらに、閣外協力の維新が36議席を持っており、与党は約4分の3に及ぶ議席数を持っている。このため、識者では「高市政権が掲げる『責任ある積極財政』の下、介護・医療業界の報酬が増える」「2割負担増などに反対していた野党の影響力が下がり、政権の意向が通りやすくなる」といった観測が出ている。
確かに自民党単独で「3分の2以上」を取った政治的な意味合いは非常に大きい。憲法の規定では、参院が別の判断を下しても、衆院が3分の2以上の賛成で再議決すれば、衆院の判断が優先される。さらに、参院が1ヵ月間、審議をストップさせても、衆院が3分の2以上で再議決すれば、参院が否決したと見なし、再議決が可能となる(いわゆる「みなし否決」)。圧倒的多数で「直近の民意」を得た高市政権が主導権を握るのは間違いないと思われる。
一方、参院では自民101議席、維新19議席であり、両方を合わせても過半数に満たない。このため、野党の協力が欠かせなくなる。
さらに、再議決のハードルは意外と高い。例えば、ガソリン税(揮発油税)を上乗せする暫定税率が2008年4月に1ヵ月間、失効した出来事をご記憶だろうか。この時にも当時の与党である自民、公明両党は衆院で3分の2以上を有していたが、07年7月の参院選で第1党に躍進した民主党が予算関連法の審議に応じず、暫定税率が08年3月に失効。結局、1ヵ月後の「みなし否決」を経て、暫定税率が元に戻った。
つまり、参院の議決を無力化できる3分の2を有しているとはいえ、予算関連法案などを中心に、参院のハードルは意外と高い。
その結果、国会の議席バランスから考えると、国民民主党(国民)との合意形成が一つの注目点となる。元々、高市政権と国民の政策的な距離は近い上、参院で25議席を有する国民の支持を取り付ければ、国会審議が円滑に進むためだ。
◇維新との関係は?
維新との関係も要注目である。筆者は今後の展開として、維新が「与党入りのメリット」を強調するため、政策協議で主張を先鋭化させる可能性があるとみている。具体的には、社会保険料の抑制を重視する維新が「巨大与党」に埋没しないように、社会保障費の抑制に繋がる「高めのボール」を投げる展開である。
実際、こうした展開は既に始まっている。維新は「年間4兆円の医療費削減」という自らの主張を実現させるため、成分などが保険給付の薬品と似ている「OTC類似薬」について、1兆円規模の見直しを要求。医療提供体制改革でも「約11万床」「約1兆円」の削減目標を突き付けた。同様の主張は今後も続けると思われる。
しかし、維新の主張が全て制度改正に反映されているわけではない。介護・医療改革では関係者との調整が欠かせず、一気呵成な見直しは困難なためだ。結局、OTC類似薬では77成分1100品目について、患者負担に25%を上乗せすることで決着したものの、最終的な抑制額は900億円程度にとどまった。医療提供体制改革でも経済財政政策の方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)の25年版では「約11万床」「約1兆円」の数字が入らなかった。
それでも維新は「与党入りのメリット」を_強調するため、「改革が前進した」と主張している。例えば、維新から見れば微温的な改革に終わったOTC類似薬の見直しについて、斎藤アレックス政調会長は「まだ小さな一歩かもしれないが、社会保険料を下げる風穴を空けるような改革になった」と述べたという(25年12月19日『日本経済新聞電子版』)。こうした展開は今後も続くと思われる。
◇介護業界への影響は?
では、こうした政治構造の下、どんな影響が介護・医療行政に及ぶだろうか。まず、国民との関係で言うと、国民は社会保険料の抑制を掲げているものの、介護業界の労組であるゼンセン同盟の支持を受けており、維新と違って給付抑制だけではない。例えば、廃止が決まった介護支援専門員(ケアマネジャー)の更新制廃止を真っ先に主張していたし、総選挙公約でも介護職の賃金引き上げや研修費用助成などを掲げており、今後の主張や政府・与党との協議に注視する必要がある。
一方、維新との関係では、医療改革が先行する可能性が高い。介護に比べると、医療費の規模が大きく、同じような見直しでも抑制額が大きくなるためだ。自維両党が25年に交わした5回の合意文(うち3回は公明党を交えた合意)でも、医療制度改革に多くの紙幅が割かれている。
その半面、過去の合意文では介護の言及が少なく、賃上げや人口減少下のサービス提供に向けた検討などが盛り込まれている程度である。それでも25年12月に公表された維新の介護制度改革では、2割負担の対象者拡大やケアマネジメントの有料化などが掲げられていた。さらに、25年2月の総選挙公約でも介護分野における自治体の自主性拡大などが言及されるなど、給付の効率化や国の関与縮小が盛り込まれており、今後の政策協議で論点として浮上するのか注視する必要がある。










