2025年6月4日号 3面 掲載
住宅型有料老人ホームとサ高住 集合住宅への過剰規制は禁物/浅川澄一氏
住宅型有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のあり方が注目されている。住宅型有料老人ホームと訪問看護ステーションを組み合わせた「ホスピス型住宅」の診療報酬不正請求問題が起きたためだ。東証プライムの上場企業、サンウェルズ(金沢市)が医療保険で28億円もの不正請求していた、と同社の特別調査委員会が2月7日に公表した。
3月23日には、アンビス(東京)が運営するホスピス型住宅の最大手「医心館」でも同様の不正請求があると共同通信が報じた。親会社のアンビスホールデイングスは、同27日に報道の事実関係を調べるため特別調査委員会を発足させ、8月にはその調査結果を出すという。
ホスピス型住宅とは、住宅型有料老人ホームなどに入居した主にガン末期の患者に、訪問診療と訪問看護、訪問介護などのサービスを提供するものをいう。サンウェルズは、パーキンソン病の患者に特化し、「PDハウス」という施設名で全国展開している。
共に東証プライムに上場している企業であるため、不正請求は重大問題となる。だが、ホスピス型住宅そのものは事業として利用者や医療関係者からの評価は高い。終末期対応施策は緩和ケア病棟しかなく、自宅での看取りが難しい要介護者には格好の受け皿となっているためだ。両社の外に同事業で2社が東証プライムに上場している。
ホスピス型住宅のベースは住宅型有料老人ホームなどである。だが介護保険のスタート時には想定されていなかった。有料老人ホームは、介護保険では特定施設入居者生活介護として運営すべきとされていた。それが保険者自治体の総量規制や民家活用の小規模型の広がりなど諸要因で、特定施設の条件に達しないタイプが相当数出現。「類似施設」と呼ばれ、後にやむを得ず「住宅型」と命名された。
サ高住も、本来は国交省の事業だった高齢者向け専用住宅(高専賃)を厚労省との共同所管として転用したものだ。つまり、両者ともに特別養護老人ホームや特定施設の供給不足を補う、介護保険外の応援部隊として投入された。
それが、今や高齢者の入居施設としては主役に躍り出る程に普及している。2023年6月末時点で、特定施設(介護付有料老人ホーム)の定員が27万5千人に対し、住宅型有料老人ホームは36万9千人で10万人近くも多い。サ高住の定員も特定施設を上回る。

厚労省資料より筆者作成
住宅型有料老人ホームとサ高住は共に、地域の事業者と利用者が利用契約を結んで介護サービスを利用する。自宅と同様だ。だが、実態は住宅運営者自身や同じグループで提供しており、入居者には特定施設や特養とのサービス利用法と同じように見える。それがしばしば「囲い込み」と批判される。加えて、かねてから問題視されている入居者紹介事業者への過剰な謝礼金問題も浮上した。こうした事態を受けて厚労省は4月に「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を発足させ、諸問題への解決策の検討に入った。
住宅型有料老人ホームとサ高住は基本的に普通の集合住宅である。寝起きから食事、外出など自宅と同じ自由度がある。そこへ医療と介護のサービスが外部から投入されればいい。
ところが、「不正の横行」を指弾する勢いが増すと、自由度を損なう規制強化に走りかねない。歴史的な流れは「施設」から「住宅」であるはず。地域の事業者から介護サービスを得ている小規模な住宅型有料老人ホームやサ高住も少なくない。かつての「宅老所」のような熱意のある事業者も多い。角を矯めて牛を殺すような規制は避けたい。
浅川 澄一氏観光 元日本経済新聞編集委員1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。