2025年6月11日号 6面 掲載
垂水市大使、拝命/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

Aさんが繋いでくれたご縁
「お風呂屋さんに行った帰りに桜島が噴火すると灰で真っ黒になるのよ。だから帰りは必死で自転車を漕いで家に帰るの。でも時に間に合わないことがあってね……」とケタケタと子どものように笑いながら話していたAさん。高齢になり東京の施設に入所した。それまでは鹿児島県に住んでいて、桜島の小さな噴火は日常生活の一部。それさえも楽しんでいたのか、キラキラした目で楽しそうに話してくれた。私もAさんの桜島の珍事や地元の話を聞くのが楽しく、ともに大笑いしたことを今でも鮮明に思い出す。
Aさんは、アルツハイマー型認知症で、若いころからうつ病も患っていた。うつ症状が出ると部屋のトイレに閉じこもり何時間も出てこない。症状が出る前に外出や散歩、屋上でのおやつ会などリフレッシュして心身を整えていた。
昨年初夏、桜島と陸続きの鹿児島県垂水市を訪れた。垂水からはいろいろな角度から桜島を堪能できる。そして必死で自転車を漕ぐAさんが私の心に現れた。
かねてより「オリジナル体操」を創るべく、そのご指導を仰ぎたいと思っていた鹿俣体育研究所が、新型コロナを境に所在を山形県から同市に移していた。そして、昨年初めて鹿児島湾の大隅半島側から桜島を眺めることとなった。
アイドル時代に反対側の鹿児島市、薩摩半島側からは眺めたことがある。だが今回はAさんから毎日のように話を聞いてのことで、思いがその頃とは全く違う。私の瞳を通してAさんが眺めているような不思議な感覚で桜島を仰ぎ見た。
3日ほどの滞在で噴火は見られず、静かに鎮座する桜島。瞼を閉じると自転車を必死で漕ぐAさんの姿が映る。
打ち合わせを済ませ東京に戻ると、とても嬉しい知らせが届いた。今回訪れた同市の大使の任命を受けたのだ。今後、ますます福祉事業にも力を入れていきたい故の任命。同市の高齢化率は43.1%(2020年)と年々高齢化率が上昇している。鹿俣体育研究所の鹿俣由美先生によると畑仕事などに精を出す、元気な高齢者が多いという。
常夏情緒があり空気が澄んでいて朗らかな皆さん。Aさんや多くの方に頂いたご縁を大切に、桜島を堪能しながら健康イベントに励むとします!

女優・介護士・看護師 北原佐和子氏
1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」「ケアマネ女優の実践ノート」








