2025年10月8日号  15面 掲載

【書評】わたしがいる あなたがいる なんとかなる/評:浅川澄一氏

2025年10月12日

 

奥田知志著
西日本新聞社
1,700円(税別)

 

 

 

生活困窮者への支援の奥義とは

 

著者は、北九州市で活動する認定NPO法人「抱樸」の理事長であり地元教会の牧師でもある。37年前から路上生活者(ホームレス)への支援活動に取り組む。「おにぎりと豚汁、古着などを携えて訪ね始めた」。ホームレス自立支援法が成立する14年も前だった。4000人近くが、独自の支援付き住宅で暮らすようになった。

 

高齢者、子ども、障害者、失業者や生きづらさを抱えた人などへ幅広く支援先を広げる。中学生に襲われたホームレスからの一言、「中学生には家(ハウス)はあっても帰るところ(ホーム)がない」に衝撃を受け、以来「ハウスレス(経済的困窮)」と「ホームレス(社会的孤立)」の両面、とりわけ「孤立」「一人」の問題を重視する。

 

このように、長年の活動で触れ合った人たちを描写しながら、著者の考え方を全面展開したのが本書である。北九州市の路上生活者は減少してきたが、全国的には新自由主義の浸透で生活困窮者、孤立者は広がっている。

 

法人名の「抱樸」とは、山から切り出された原木、荒木(樸)をそのまま抱きとめることだという。その理念による地道な実践が今や困窮者支援の第一級のモデルとなりつつある。活動を支える思いや姿勢を本書で解き明かす。

 

現実の事件が度々引き合いに出される。なかで、ひきこもりをテーマにしたところでは、自身の体験も躊躇なく披露。息子がひきこもって不登校になり「ずいぶん悩んだ」と正直に述懐する。「『何が原因か』『原因を取り除けば元気に学校に行くのではないか』と軽薄に考え、焦り、子供たちを苦しめた」と顧みる。

 

社会的主張が自身の家族には適用し難いことはよくある。それを「軽薄」と自省。言行一致の姿勢に読者は頷く。

 

流行りの自己責任論や自分病に反論し、「孤立は自己認知機能を低下させる」と唱え、「人との分かち合い」「つながり」が大切と訴える。「共にいる存在」「何気ない日常を共に生きる」と繰り返し、「なんちゃって家族」の必要性を説く。

 

抱樸では家族でない仲間たちが葬儀を行う。家族機能の肩代わりである。小津安二郎が映画で描く家族を取り上げ「だらだらと一緒に過ごす」家族の再生を提言する。その思いが書名になった。

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

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