2026年4月1日号 31面 掲載
棺桶まで歩こう/評:浅川澄一氏

萬田緑平著
幻冬舎新書
1,034円(税込)

「穏やかな死」の迎え方とは
著者は群馬県前橋市で開業している医師である。「緩和ケア萬田診療所」と入り口に大書。すぐ横に「ガン患者さん専門の診療所です」「がん患者さんが自宅で辛くなく生きるお手伝いをする診療所です」と外の通行人が読めるように記す。
医師の考え方と人柄が一目でわかる。なんとも素直な表現だ。
「自宅で辛くなく生きるお手伝い」と自宅を強調して「緩和ケア」を丁寧に説明する。延命治療を望む方はどうぞ他の医師へ、との意を含む。
なぜ緩和ケアなのか。本書にその答えがある。
医師になりたての頃は延命治療にいそしんだ。苦しみながらの死亡に疑問を抱き、42歳で病院の外科医を辞め、がんの緩和ケア医に大転身。8年前、53歳で現在の診療所を開設した。
誰もが迎える死を真正面から本人のために向き合う。その姿勢から様々な信念が生まれ本書で語られる。2000人もの看取りに出会い、家族からお礼を言われ確信に。医療界の「常識」とかけ離れた信念ばかりだ。
「がんで死にそうになったのではなく、抗がん剤で死にそうに」「人は病気で死ぬのではなく老化で死ぬ」「病気は老化の段階に名前を付けただけ」「家族が十分生きたと思えれば、がん患者でも死亡診断書には老衰と書く」「身体の元気より心の元気が大切だから、酒やたばこ、外出も自由に」―――――。
書名は、「死の直前まで歩こうよ」との呼びかけだ。歩くことの重要性から本書は始まり、最も楽な死に方への道筋を説く。看取った患者の具体例を挙げながらなので説得力がある。
「日本は患者を死なせない国」と断言し、医療界のあり方への批判にも筆が及ぶのは当然の成り行きだろう。
医師だけでなく家族の「抵抗」にも矛先は向かう。「死なせたくない」との思いが、本人が望む「らしさ」を奪う。むしろ家族不在の一人暮らしの方が、意思がきちんと尊重されハッピーに死ねるとも。
自身の老いへの覚悟も披露する。「健康に良いことを一所懸命にして長生きしたいなんて恐ろしい」とはっきり言い切る。読者の共感を得そうだ。
死を論じる際に欠かせないセデーション、リビングウィル、認知症などへの言及もある。死のタブー視から脱却できる、提言の豊富な好著である。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏










