殻を打ち破る成長のストーリー 映画「MISS ミス・フランスになりたい!」/小川陽子氏
—第25回 殻を打ち破る成長のストーリー—
1月20日、時代の幕明けとなったジョー・バイデン新大統領就任式。伝統である詩の朗読は史上最年少22歳のアマンダ・ゴーマンさんが招かれ「多様な人種や個性を代表するようなものにしたい」(VOGUEインタビューより)と想いを込めた自作の詩を詠んだ。
★監督・原案・共同脚本:ルーベン・アウヴェス
★出演:アレクサンドル・ヴェテール、イザベル・ナンティ
2020年/フランス/フランス語/スコープ/5.1chステレオ/107分
(C)2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS
2月26日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国公開
夜の特別番組では、豪華な顔ぶれのミュージシャンがパフォーマンスを披露し、ラストを飾ったケイティ・ペリーは、ワシントン記念塔と盛大な打ち上げ花火をバックにヒット曲「Firework」を熱唱。伸びやかな歌声とともに、メッセージがシンプルに心に響く、背中を押してくれる一曲だ。
社会通念に当てはめないボーダレスな生き方の尊さ
2020年12月22日、木星と土星が大接近する「グレートコンジャンクション」で、占星術的には、地の時代から風の時代へと星座のエレメントが変わる、200年に一度の大きな歴史の転換期を迎えた。物質主義から精神主義へと価値観の変化が訪れるという。
まさに人類が、社会システム改変の目撃者となったいま、社会学者のアンソニー・ギデンズが説く「未来の植民地化」がリンクする。前近代が受け入れてきた宿命から、近代では「未来は未知なものである」一方で、未来は戦略的に計算可能なものと認識した運命論に変わり、現代ではそれを強制的に身につけさせる社会になった。
手に入れたはずの自由とは逆に、「多様性」を排斥しかねない運命論で自分たちを縛ってきたのだ。例えば、学校で9歳の美少年が「夢はミス・フランスになること」と発表すると、クラスメイトに冷やかされた。少年はその夢を封印し、やがてありのままの自分を愛せなくなった。アイデンティティを、気づかないうちに他人によって喪失していないか。
そんなパラダイムを打ち破る、新時代に相応しい映画「MISS ミス・フランスになりたい!」が公開される。ボーダレスで、見目麗しく、エッジの効いた問いを投げかけながらも、心に灯がともるヒューマンドラマ。監督・脚本は、「あしたは最高のはじまり」に出演した俳優のルーベン・アウヴェス。社会通念に照らさず〝ありのままの自分〞、〝真の美〞を探究する普遍的なテーマに臨んだ。
性の視点を超えた新たな捉え方を持ち込み、ミス・コンテストを題材に「美の独裁」への批判が仕掛けてある。主人公のアレックスを演じるのは、フランスのジェンダーレスモデル、アレクサンドル・ヴェテール。ジャン=ポール・ゴルチエのウィメンズショーでは、ノンバイナリー的なアイデンティティで注目され、スクリーンの中でも彼の佇まいに魅了される。
殻を打ち破り、個を確立しようともがきながら成長する姿が共感を誘う。そんな彼を、多様性を極めるアパートの住人たちが溢れる愛で支えていく。そしてミスコンサイドのアマンダの存在も、監督のフラットな視点が生かされ文句なしに素敵だ。クライマックスでは、見るものの心の「Firework」が着火し、気がつけば、喝采を送っているだろう。
小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会 前副会長。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。