賃貸借契約に関する確認事項 借主死亡後の契約関係について/弁護士 家永勲氏
<連載第116回 借主死亡後の契約関係について>
相続人の有無による最適な判断を
現在の賃貸物件においては高齢者が借主となっていることも多く、仮に借主が亡くなってしまった場合には貸主や管理会社の対応が問題となります。そこで、今回はこの借主が死亡した場合の契約関係について解説していきます。
まず賃貸借契約においては、借主が死亡したとしても賃貸借契約は終了しません(民法622条は、民法597条3項「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」を準用していないため)。そこで、賃貸借契約上の借主の地位は相続によって相続人に承継されることになります(民法896条)。
したがって、死亡した借主について賃料の滞納等の解除事由がないのであれば、貸主としては借主が死亡したことのみを理由として賃貸借契約を解除することもできませんし、相続人に対して明渡しを求めることもできません。さらに、相続人が複数いる場合には遺産分割協議が成立するまで相続人全員が借主の地位を共同で相続していることになります(民法898条、賃借権の準共有)。
そこで借主が死亡した際には貸主や管理会社として、まず相続人が存在するのか、存在するとして何人いるのかを調査し、その後、判明した相続人に対して賃貸借契約の継続を希望するのかといった点を確認することになります。なお、借主の相続人が誰であるかについては戸籍謄本等を取り寄せて確認することが可能です。
次に相続人が存在しない場合でも、例えば、内縁の配偶者(婚姻届がなく事実上夫婦として生活している者)が入居者となっている場合には注意が必要です。賃貸借契約において借主が死亡し、相続人がいない場合には、その借主と同居していた内縁の配偶者は借主の権利義務を承継することができるという規定が存在するためです(借地借家法36条1項)。
そこで、借主に相続人がおらず、このような同居の内縁の配偶者がいた場合、賃貸借契約上の借主の地位は内縁の配偶者に承継されるため、貸主や管理会社としてはこの内縁の配偶者と賃貸借契約に関する事項を確認することとなります。
以上のとおり、借主が死亡した場合、貸主や管理会社は、戸籍謄本等によって相続人を確認するとともに、実際に物件を訪れて内縁の配偶者等がいるかを調査する必要があります。
弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士
家永 勲氏
【プロフィール】 不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。 介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。