低家賃のサ高住は「悪質」? 生活保護受給者を追い出し/浅川澄一氏
厚労省が「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」の「囲い込み退治」に乗り出した。この2月から自治体で入居者のケアプランのチェックが始まる。 狙いは「過剰なケアサービスの点検」で、「過剰」の理由として、低家賃による集客を挙げている。
自治体向けの2021年3月18日の通達で、「介護保険サービス事業者が併設するサ高住で、家賃を不当に下げて入居者を集め、その収入の不足分を補うため、入居者のニーズを超えた過剰な介護保険サービス提供している」と見解を示した。
「家賃を不当に下げて」との記述に注目したい。 他の部屋や周辺の住宅より低家賃を設定した事業者は一律に「悪質」とみなされかねない。そもそも民間の賃貸住宅の家賃設定は自由である。同じような部屋でも家賃が違うことはあるはず。
サ高住の家賃は「周辺並み」と国交省は指導してきたため、「厚生年金や共済年金を得る中産階層向け」「国民年金だけの人には入居が難しい」とされている。だが、実態は違う。都道府県別の登録戸数では大阪府と北海道が突出して多い。
1月24日時点での全国27万3704戸のなか、大阪府が3万421戸で第1位、2万1665戸の北海道が2位。大阪府だけで全サ高住の11%を占める。この1、2位は10年前の制度発足時から変わらない。

断トツの1位はずっと大阪府である
3位以下は埼玉、東京、兵庫、神奈川、千葉、愛知の各都県で高齢者人口が多い首都圏中心だ。いずれも1万戸台。大阪府と北海道だけは高齢者人口に見合わない多さだ。大阪府は神奈川県とほぼ同じ高齢者数だが、サ高住は2倍以上もある。
なぜ大阪府にサ高住が多いのか。国交省の「情報提供システム」で検索すると、かなりの低家賃設定が目を引く。 4万~6.5万円、3.8万~4.2万円などと表示された中で最も低い家賃について事業者に問うと、異口同音に「生活保護受給者向けです」との答えである。
生活保護受給者は、受給される住宅扶助で家賃を支払う。単身者の住宅扶助額は大阪市が4万円、高槻市は3万9千円、枚方、東大阪市は3万8千円など。事業者はこの額に合わせて低家賃の部屋を決め、受け入れている。「生活保護受給者の方は家賃3万9千円になります」と特別な低家賃の設定もある。
実は大阪府に限らない。「生活保護受給者は全施設平均で10.1%入居している」との報告書が厚労省にある。「生活保護受給者が20%以上入居している」と答えた事業者が18.3%もいることなどから判明した。
そして、生活保護受給率が全国1位、2位はずっと大阪府と北海道である。昨年9月時点で、全国平均が1.63%。大阪市は4.8%、門真市は4.7%と高率で大阪府全体は3.01%となり全国1位。次いで北海道が2.95%だ。
推測できるのは、大阪府のサ高住事業者が生活保護受給者をはじめ低所得者を積極的に受け入れているということだ。問題は、生活保護受給者向け家賃が厚労省の「不当に下げて」に該当してしまう。 その事業者たちは「生活保護の人を含め、住宅に困っている人を誰でも手助けしたいという信念で始めた」「重度の入居者のケアプランは支給限度額に近くなるが、家賃とは別問題。結びつけるのはおかしい」と話す。
先進国で低所得者への家賃補助がないのは日本だけ、とよく指摘されてきた。そこで特別家賃を設けた事業者が現れ、多くの入居者が使い勝手のいい併設の介護サービス利用している。これを「悪質な囲い込み」として一律に排除する施策には疑問だ。
浅川 澄一 氏 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員 1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。