「声掛け」の定着 視覚障害者の「空席探し」/公益財団法人共用品推進機構 星川安之氏
令和4年3月まで日本点字図書館(日点)の館長だった長岡英司さんは、4月に理事長に就任し、通勤電車の時間を変えることになった。
2年前からのコロナ禍で、電車も空席が多い状況、しかし白杖使用者の長岡さんには、どこが空席かは分からない。そのため、扉の近くに白杖と共に立っていた。

空席を探すことが難しい
ある日、「座りますか?」と声をかけてきた女性がいた。多くの人は障害のある人に声をかけるのをためらうか妙にかしこまった話し方になり、席に着くまでがおおごとになる。「座りますか?」は、何とも心地よかった。「はい」と答えると、なんとも自然に席まで着けた。
次の日も同じ女性が声をかけてきた。数ヵ月続いたある日の朝、「座りますか?」と、言葉の内容は同じだが、声のトーンが違う。明かに違う人だった。長岡さんは、「はい」と一言、いつものように答えると、いつもの女性が行う方法で、長岡さんを空いている席の前まで誘導し、「ここです」と言って、いつもの人と同じようにその場から離れていった。
次の朝は、またもとの女性が声をかけてくれたが、時々、二人目の人やそうでない人の時もあった。違う人が声をかけてくれた日が、いつもの人がいなかった時なのか、いつもの人がいても、違う人が先に声をかけたのかは定かでないが、周りの人は席まで誘導を見ていたことは、ほぼ間違いないと思われる。
30年前、日点が行った視覚障害者への『不便さ調査』では、「空席を探すことができない」という回答が多く挙がった。調査から30年たち、設備や機器は使いやすく変わってきているが、「空席探し」は解決に至らない。
しかし2年間、長岡さんが経験した空間では、1人の声掛けから、その場の空気が変化し「声掛け、誘導」が自然と定着したのである。
星川 安之氏(ほしかわ やすゆき)
公益財団法人共用品推進機構 専務理事
年齢の高低、障害の有無に関わらず、より多くの人が使える製品・サービスを、「共用品・共用サービス」と名付け、その普及活動を、玩具からはじめ、多くの業界並びに海外にも普及活動を行っている。著書に「共用品という思想」岩波書店 後藤芳一・星川安之共著他多数