【書評】縛られる日本人/評:浅川澄一氏
書評 介護・医療業界注目の一冊

縛られる日本人
メアリー・C・ブリントン著/池村千秋訳
中公新書
900円(税別)
出産増には男の育休を義務化
日本の出生数が今年、初めて80万人を割りそうだ。国の予測より8年も早い。外国人を含む速報値では9月までの累計で59万9千人。前年同期を4.9%も下回った。
人口の1億人割れも間近だ。「日本は消滅に向かっている」と著者は危機感を持つ。
本書は、なぜ日本の出生数が減り続けるのかを調べ、導き出した対策として「男性の育児休業を義務化すべき」「育児休業中は給与の100%保証を」と説く。家事育児に男性が女性と同様に責任を持つべきだと訴える。なぜなら、「ジェンダー平等が高い水準の国ほど出生率が高い」からだ。
著者は、日本社会を長年研究してきた米ハーバード大の社会学教授。
分析データの収集法がユニークだ。30歳前後の日本人と米国人男女に面談、スウエーデンでも同様の調査を実施。子育てや仕事との両立プランなど多くの現場の声をすくい上げた。悩み事や解決策に説得力がある。
日本は子育て支援の政策に海外と引けを取らないが、利用者があまりに少ないと指摘する。「男性の稼ぎ手モデル」という性別役割分業が根強いためだ。強固な社会規範の打開こそ真っ先に取り組むべきだと主張する。
企業人があまりにもその社会規範に「縛られている」と感じ、目を引く書名にしたようだ。著者の強い思いであろう。
ジェンダー平等の視点で、「共働き・共育てモデル」を中心に据えねばならない。まず第一にすべきは、出産直後の父親の育児参加だと強調する。その体験こそが「父親が家庭で大きな役割を果たす土台になる」と断言。「夫の家事労働時間が多いほど、夫婦が2人目の子どもを設ける可能性が高まる」。
その利用を妨げているのは企業内の「悪しき」規範だ。単身赴任、残業、人事部の権限、顧客絶対主義など他国にない日本型雇用慣行を暴く。「労働ファースト、人間セカンド」とも言う。
近年のワークライフバランスの主張は一応もっともだが、女性にだけ求められ、男性のライフ、家事参加を増やす視点がない。周囲の男性の間では育児休業反対派が多数派だという間違った思い込み、即ち「多元的無知」が「仕方がない」のあきらめを生む。社会学者ならではの分析だ。
少子化対策の胆は「男女不平等」の解消と読み込める著者の主張に拍手拍手である。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏