【書評】駒場苑がつくった介護百首/評:浅川澄一氏

坂野悠己著
ブリコラージュ
1,760円(税込)

短歌で明かす「ゼロ介護」の手法
「座ってて静かにしてと 制止せず動く自由を 守って付き添う」
「着替えでは 着患脱健 忘れずに マヒ側から着て 健側から脱ぐ」
著者は特別養護老人ホーム、デイサービスなどを営む駒場苑(東京都目黒区)の統括施設長である。日々のケアの心構えや注意事項を百首の短歌に織り込んだ。労作である。
駒場苑は「7つのゼロ」を掲げてきた事業者として知られる。寝かせきりゼロ、おむつゼロ、機械浴ゼロ、誤嚥性肺炎ゼロ、脱水ゼロ、拘束ゼロ、下剤ゼロである。理想の介護を目指し続ける。
7ゼロと聞けば、「とても無理」と職員から一蹴されがち。なのに駒場苑では目標を降ろさない。なぜ「ゼロ」に向きあえるのか。その手の内が、五七五七七の覚えやすい言葉で披露される。
場面別では、食事が16首、入浴が15首、排泄 (トイレ)が13首。身体介護の基本、三大介護で半分近い。なかで、目を引くのは「前かがみ」の用語が7首もあること。
「トイレ座位 自分でできない 前かがみ 背中にクッション 前にテーブル」
「食べる時 机の高さは へその位置 前かがみで食べ 肺炎防ぐ」
「立ち上がり 介助する時コツあるよ 床に足着け 足引き前屈」
人間の動作を知り尽くし、前かがみの重要性を指摘する。自らの重心移動を促す。力任せは不要。食事やトイレ、入浴時にいつでも欠かせない。
前かがみを生み出したのは「生活リハビリ」の考え方である。
「寝返りと 起き上がりに 立ち上がり 移乗に座位保持 すべて生活リハビリ」
と、「すべて生活リハビリ」で最後の100首目を締める。
介護のハードルを上げる認知症ケアについても
「その方の 昔やってた お仕事や 家事や役割 取り入れ 生活」
と生活重視の手法を提案。
見開きページごとに短歌があり、その解説文とイラスト付きで、どのペ ージからでも手軽に読むことが出来る。施設だけでなく、在宅介護でもそのまま納得できる。
百首の冒頭の歌に著者の思いが存分に込められている。
「最期まで その人らしい 生活を そのためにいる 私たちかな」
「その人らしい」を解説文できちんと説明する。日本の高齢者ケアの高いレベルが分かる画期的な著作と言えるだろう。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏










