【CHECK マスコミ報道】「社福売買」は氷山の一角 /浅川澄一氏
読売新聞は1月16日、「介護保険『負担増』結論先送り」という見出しの特集記事を掲載した。その中で、9段階の保険料の上に新たな段階を設ける厚労省案を「高所得者は引き上げ」と棒グラフ付きで解説した。
だが、半数の自治体は既に9段階以上としており、厚労省提案は既に実行されている。東京23区内では7区が17段階にも広げている。厚労省案は目新しくない。
その事実に触れないのは取材不足と言わざるを得ない。他のメディアも同様に、厚労省案をそのまま「転載」してきた。
2日の朝日新聞は、負担増の先送りに「貢献した」市民運動のリーダー、上野千鶴子さんにケアワーカー不足問題を聞いた。「解は一つ。賃上げ」とズバリ、明快に答える。介護は「女のただ働き」の意識があるから低賃金だと強調する。その通りだろう。
朝日は7日にも「『科学的介護』の落とし穴」を「よりあいの森」(福岡市)施設長から聞き出す。効率性重視への反論を「宅老所」での現場体験から語る。話題の「LIFE」の是非論に直結する議論だ。
2人の起用は介護の基本を問い直す良い紙面作りといえよう。
介護現場からユニークな短歌の本が出版され、18日の読売新聞と26日の東京新聞が共に夕刊で報じた。特別養護老人ホーム(東京都目黒区)の施設長が執筆した「駒場苑がつくった介護百首」である。書評欄でなくニュースとして取り上げたのがいい判断だ。おむつゼロ、脱水ゼロなど同苑が掲げる7つのゼロの手立てを短歌で明かす。
「絶えぬ不正」と読売新聞
「社福売買」の強いタイトルが目を引いたのは30日からの読売新聞の3回連載企画だ。福山市の社会福祉法人を舞台に、理事長と公認会計士が横領容疑で逮捕された事件である。同紙が追い続けただけに、社福一般のガバナンス問題まで踏み込んだ。
「規制強化後も絶えぬ不正」「監視の仕組み機能せず」と警鐘を鳴らす。改正法施行後も「逮捕案件は約20件ある」のが現実。他メディアの奮起が望まれる。
安楽死を真正面から取り上げたフランス映画「すべてうまくいきますように」が上映中だ。公開日の3日の夕刊で各紙は映画評で大きく扱った。安楽死が法制化されているスイスと自殺幇助罪に問われるフランスの制度の違いを浮き彫りにした傑作。
だが、日本経済新聞は「尊厳死をクールに描く」とおかしな見出しを掲げた。安楽死と尊厳死は大違いである。映画評論家の寄稿とはいえ、チェックが欠かせないはず。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。