「職員の休憩室に投資を」 全体コスト踏まえ設計・建築
高齢者施設や障害者施設、診療所などの建築・改修設計を行うやまと建築事務所(秋田県大仙市)。
重要視しているのは事業の持続性だ。建物におけるイニシャルコスト・ランニングコストだけでなく、事業・収支計画もクライアントと検討した上で設計にあたる。
建築・改修費、光熱費も高騰する今、「コストをかけなくてもよい点・かけるべき点」について、松塚智宏社長に聞いた。

やまと建築事務所 松塚智宏社長
――どのような考えで建築を進めていくか
松塚 クライアントの事業持続性が最重要事項。数十年先を見据えた事業計画・収支計画をともに考え逆算し、建築に当てられるコストを導き出す。これをまず最初に行うことが、最終的に無理のない事業継続につながる。特に介護保険事業は収入が限られるため、コストパフォーマンスも考えた建築が必要だ。
――「想定よりコストがかかってしまった」という声はよく聞く
松塚 新築の場合は、土地選びの段階で状況調査・トータルコストの把握が鍵となる。「安いから」と契約しても、地盤の関係で補強工事、水道工事などが必要になると、想定の総工費よりもプラス3~10%ほどかかるケースもある。一方、結果的に解体コストの方が安い場合や、見た目が劣化していても骨組みが丈夫であれば改修できる場合もある。
――「理想の施設」を目指しつつ、コストを抑えていくには
松塚 建築・設備関係費は数年前に比べ価格が20~40%上がっている状況。改めて会社の理念に立ち返り、「コストをかけなくてよい点、かけるべき点」を整理する必要がある。特に寒冷地の場合は、「建物の大きさ・高さ」にかけるコストよりも「断熱性」にコストをかけたほうが良い。
例えば、地域交流スペースを〝必要以上に〟広く・天井を高くする、ガラス張りを多用するといった要望は多いが、利用者や職員が本当にそこまで望んでいるか、再考の余地がある。もう少し建物を小さくしたほうが建築コストを抑えられ、断熱性も高まるため光熱費のランニングコストも抑えることができる。代わりに、内装の壁材・床材・インテリアなどに力を入れ、利用者・職員にとって快適なデザインにするのも一つの手。細かい内装は、こだわったとしても建物工事費の0.5~3%増える程度で、コストパフォーマンスが高い。
ほか、日射熱負荷を抑えるために窓に屋根がかかる設計にする、メンテナンス性を考慮して外壁材を気候変化に強いものにするなど、長期的なランニングコストを含めた視点が必要だ。

デイの相談室は、温かみがあり居心地の良い空間に
――「コストをかけるべき点」は何か
松塚 人材不足の状況下、職員が働きたいと思える施設づくりは最も追求すべき点。職員を大事にするにあたり、特に「休憩室」はしっかりと休める空間を事業者側は提供してほしい。ゆとりのある広さを設け、装飾に緑を使用する、ソファーを用意するなど、少し内装をグレードアップするだけでも職員の満足度は上がるはず。
また、共有スペースは利用者が居室から足を運んだ際に「街に出てきたような気持ち」に気分転換できる空間デザインを意識している。家族や地域の人の視点も考慮し、カフェのような空間づくりなど、施設のコンセプトに沿った提案をしている。入居者の施設選びにおいてはソフト面も重要視されるが、建物もプラスαとして重要な要素だ。

特養の多目的ルーム。「ここに入居したい」と思わせるデザインを意識する