【行政の指導・監督緊急事業者アンケート】評価基準の明確化 急務

2023年5月12日

 

 

介護保険法に基づいてサービスを提供する介護保険施設・事業所に対しては、行政による指導監督が行われる。「高齢者の尊厳の保持」や「介護保険制度への信頼性の担保」のための重要な業務だ。しかし、適正なサービス提供のための指導や監査の手法について、自治体間での標準化が確立されていないという現状がある。

 

これを踏まえ、介護経営誌「介護ビジョン」(4月号にて掲載)と本紙は、介護事業所に対して独自アンケート調査を実施。回答結果とともに、弁護士や自治体、事業者の声を紹介する。

 

 

 

 

 

 

ローカルルール 混乱招く

 

行政による指導監督には、大きく3つのステップがある。第1段階が「行政指導」。行政指導は任意だが、従わなかった場合には、行政は指導の対象とした介護施設・事業所の情報を集めなければならない。しかし、調査に向けて運営指導(実地指導)を行うための権限や法的根拠はなく、対象の同意が不可欠だ。

 

第2段階が「監査」。介護施設・事業所において人員基準違反や運営基準違反、不正請求、高齢者虐待などが認められた場合やその恐れがある場合に行われる。対象の同意を得ずとも立入検査の権限が行使される、強制性のある検査だ。

 

そして第3段階が「行政処分」。監査の結果、行政処分の原因に該当する事実が判明した際に手続きが行われる。具体的には、指定の取消や効力停止、改善命令、改善勧告がなされる。

 

 

行政調査「受けた」8割
本アンケートに届いた242事業所からの回答によると、何らかの行政調査を受けたことが「ある」と回答した事業所が8割を超えている(図1)。調査形態の内訳は、「運営指導(実地指導)」が175件と最多。次いで「監査」が53件、「有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の指導監査」が20件など(複数回答)。

 

 

図1 ※アンケート回答を基に編集部で作成

 

 

 

行政調査で指摘された内容については、「記録、契約書、計画類の不備」が最多で67件、「施設内の設備や環境整備に関する不備」22件、「内部研修実施状況やマニュアル等の不備」21件と続く(複数回答、図2)。

 

 

図2 ※アンケート回答を基に編集部で作成

 

 

 

「調査の印象」分かれる
「行政調査に対する印象」について尋ねた設問には、様々な意見が寄せられた(図3)。「特になし」との回答が多かったが、「担当者変更により指導内容が変わる」「評価基準が明確でない」「ローカルルールがあり混乱する」といった標準化への課題が見られる内容に加え、「威圧的・高圧的だった」「粗を探すような感じがした」といった調査員の姿勢に関する不満の声も挙がった。なお、調査担当者については「介護を知らなそうだった」との回答が4分の1に及ぶ。

 

 

図3 ※アンケート回答を基に編集部で作成

 

 

一方で、「丁寧で親切だった」「変更点などを指摘してもらい勉強になる」「不明瞭な解釈などを直接質問でき、返答をもらえる機会」と好意的な回答もあり、行政調査を受けるメリットも大きいとみられる。

 

 

「行政の態度」に課題 「高圧的態度」是正へ
2022年3月の厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」には、「運営指導者の態度」について次のような記述がある。「運営指導において、相手方に対して高圧的ととられる態度を示したり、そのような言葉遣いをすることは許されません」

介護・福祉業界専門の弁護士法人おかげさま(東京都新宿区)外岡潤代表弁護士は「まるで子どもに諭すような留意事項ですが、全国各地で担当者が『高圧的な態度』で指導や監査にあたっているからにほかなりません」と語る。

 

 

虐待認定めぐる現状
不正請求などは処分の根拠が明確だが、虐待の認定や疑いに関しては、根拠が標準化されにくい。22年3月に指導指針・監査指針が改正され、「不正請求の疑いが高いもの」に加え「高齢者虐待が疑われるもの」も監査の発動要件となった。根拠の信憑性で監査とするか指導とするか判断されていたケースも、原則として監査が行われる。利用者を守る観点から虐待を見過ごしてはならないが、不十分な根拠で疑われ虐待と認定されてしまっては、介護事業者としてはあまりにも大きな損害だ。

 

利用者、事業者双方にとって最悪のインパクトとなる「虐待」。これをめぐる事例について、弁護士、行政、事業者それぞれの声を、現状を紐解くヒントとしたい。

 

 

 

 

 

 

 

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