退職理由のホンネを引き出す 職員の離職防止対策/ねこの手 伊藤亜記氏

2023年5月24日

 

 

介護労働安定センターの「令和2年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書」によると、「前職(介護関係の仕事)をやめた理由」の第1位は「結婚・出産・妊娠・育児のため」(25.0%)、第2位は「職場の人間関係に問題があったため」(16.6%)、第3位は「自分の将来の見込みが立たなかったため」(15.0%)でした。

また、「労働条件・仕事の負担についての悩み・不安・不満等」については、「人手が足りない」が52.0%で最も高くなっています。職員の離職を防止するために、今一度、職員との関わり方を見直してみましょう。

 

 

人員配置基準にのっとっていても、職員一人ひとりのスキルに違いがあることや業務分担が適正でないなどの理由で、スキルのある職員ばかりに業務負担がかかり、「人手が足りない」と感じることも多いようです。

介護業界は管理者が相談員やサービス提供責任者などの職種を兼務しているケースが多いです。そのため、職員から離職の相談をされた際に、時間を取って真剣に話を聞く余裕がないことも多いでしょう。

 

しかし、この対応を怠ると、離職を検討している職員は「この上司は私を必要としていない!」と誤解し、離職を決断してしまいます。職員が離職を申し出る時には、まだ検討段階の場合も多いため、時間を取って真剣に話を聞くことで理解を得ることができます。

 

 

また「家庭の事情」を理由に退職を申し出る職員もいますが、真の理由を引き出すようにしましょう。波風を立たせないために家庭の事情を離職理由にする職員もいますが、具体的に内容を確認し、他に真の理由があるならば、解決に向けた提案をしましょう。

離職したい真の理由が「家庭の事情」の場合には、残業の解消や勤務日数・勤務形態の変更などを提案することで、離職を回避できる可能性もあります。

 

 
また、保有資格を活かし「介護支援専門員をやりたい」「生活相談員をやってみたい」といったキャリアアップを理由に離職を申し出るケースもあります。

タイミング良く、自施設や系列事業所に介護支援専門員の業務を常勤で行えるステージがあれば良いですが、ない場合には「しばらくは今の事業所の業務との兼務で介護支援専門員の業務に慣れてもらい、いずれ介護支援専門員が常勤で行えるようにサポートする」と提案してみると良いでしょう。

 

 

介護業界のICT化により「PC作業もできないし、ついていけない」と離職を申し出るケースもあります。ただ、PC作業は苦手でも、コミュニケーションスキルがあり、新人職員に丁寧に教育ができる職員もいます。この場合には「教育担当」を担ってもらう提案を行いましょう。

 

介護現場の採用面接をしていると「将来どんなお仕事をされたいですか?」という質問に対し、「ケアマネジャーになりたい」と言われることも少なくないと思います。

 

ケアマネジャーになるには、資質と経験が求められるだけでなく、高齢者の心身状況に関する知識や、法律や制度に関する知識も問われます。このようなステップアップに必要なことを示すとともに、今の業務が将来のビジョンにつながること伝えると良いでしょう。

 

職員から離職の申し出があった際には、単に「今まで助けてくれてありがとう」では、職員の心に響きません。頑張って支えてくれたことで、利用者、チーム、施設に得られたメリットを伝えてください。例えば、利用者や職員から「〇〇さんにいつも優しく声をかけてもらって嬉しい」「〇〇さんはいつも困った時に声をかけてくれて、助けてくれる」という声が上がっていることを伝えます。

 

 

本来、このような声は速やかに伝え、感謝の気持ちも伝えなければなりません。介護業務で大切なのは「申し訳ございません」「ありがとうございます」が、素直に言えることです。上司自ら心がける必要があります。

 

 

 

 

伊藤亜記氏
㈱ねこの手 代表

介護コンサルタント。短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に98年、介護福祉士を取得。以後、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行、大手介護関連会社の支店長を経て、「ねこの手」を設立。

 

 

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