正しく理解したい認知症 神奈川歯科大学歯学部 臨床先端医学系認知症医科学分野教授 眞鍋雄太先生【前編】

2023年5月27日

 

 

 

2025年には人口の4人に1人が75歳以上になるという超高齢社会のニッポン。かつて「痴呆症」と呼ばれた認知症への理解も広がってきた…かと思いきや、なかなかそうでもないらしい。これまで約2000人の罹患者を診てきた日本認知症学会専門医の眞鍋雄太先生に、まずは認知症って何?という基本についてお聞きした。

 

 

神奈川歯科大学
歯学部臨床先端医学系
認知症医科学分野教授
眞鍋雄太先生

 

認知症≠もの忘れ

 

――認知症とは、ズバリどんなものなのでしょう?
認知症は、単一の疾患を指すのではなく「何らかの病気が原因で社会生活に支障をきたした状態の総称」です。認知症=もの忘れと理解している人が多いですが、それは全くの間違い。原因となる疾患は60数種類あると言われ、病気によって脳のどの部位が障害されたかによって、当然メインとなる症状は異なります。

 

 

 

――アルツハイマー型、レビー小体型、そして脳血管性の「3大認知症」について教えてください。
歳をとると、脳内にアミロイドβという物質がたまります。これ自体に毒性があって神経細胞を壊すので海馬領域に萎縮が生じますが、問題となるのは、アミロイドβが病的に増殖していった結果、タウタンパクというものの蓄積を誘導する状態です。タウタンパクは神経毒性が非常に強く、神経細胞をどんどん破壊していってしまう。これがアルツハイマー病です。

 

アミロイドβがある程度たまってもタウの誘導が起こらない状態が、通常の加齢性変化としての海馬の萎縮で、女性は閉経後の50歳前後から、男性は60歳前後から起こります。だから海馬はみんな萎縮するんですよ。当然、記憶の低下やもの忘れもある程度全員に出てきます。アルツハイマー型認知症は、「アルツハイマー病によって」海馬が萎縮したために記憶障害などが起こる症候なんです。

 

 

 

正常な加齢(上)とアルツハイマー型認知症(下)の脳血流と海馬の比較(提供:横浜新都市脳神経外科病院)

 

 

 

 
レビー小体型認知症は、パーキンソン病と同じ原理で、脳神経細胞にα-シヌクレインというタンパクが異常に蓄積するレビー小体病が原因で発症します。物事を計画し実行する遂行機能に障害が出るほか、いきなり眠ったように動かなくなったりテレビのリモコンが使える日と使えない日があったりするなど、覚醒度が良い時と悪い時の波があるのが特徴です。

 

 

脳血管性の場合は、脳血管障害が起きた部分に関連する領域の機能が落ち、見た物の形が認識できなくなったり、自分と物との距離が把握できずぶつかって歩くようになったりします。突然怒り出す、間欠性爆発型の感情失禁という症状もあります。

 

 

認知症全体の約45%がアルツハイマー型で、レビー小体型が約20%、脳血管性が約15%であとはその他と言われていますが、認知症性疾患は、どのタイプも進行すると前頭葉機能が障害されて判断、検討、実行といったことができなくなります。だから症状が違うのは最初の頃だけなんです。

 

 

 

――こんな行動が出たら医療機関を受診すべき、といった目安はありますか?
「今までと違うのかどうか」です。電話をかけられなくなった、銀行のATM操作ができなくなった、料理好きだったのに、作りたくなくなった、とかね。5分くらいの短い間に3回以上同じことを聞いてくるような場合も要注意です。

 

タレントさんの名前をど忘れして、「あの人誰だっけ?」といって後でふと思い出すようなものは、あまり病的な意味はないですね。そうではなく、「誰だっけ?」と言ったこと自体を忘れてしまっている場合は、レッドフラッグです。

 

 

嗅覚障害は、レビー小体病の初期症状の1つです。それから、寝言と、男性の徐々に悪くなる便秘も。若い頃に手術をしているのなら話は別ですが、男性って基本的に女性に比べてあまり便秘はしないんですね。寝言は、子どもの場合はいいですが、成人の場合はレム睡眠行動異常症の可能性が高いです。レム睡眠の時に随意筋は動きませんので、声が出ること自体おかしいんです。便秘、嗅覚障害、寝言は3大セットですね。これが揃っていたら、レビー小体病を疑います。

 

 

 

無知であることは罪悪 実らせ、こうべを垂れて

 

 

――認知症には誤診も多いそうですね。
そうなんですよ。まずしっかり診察して、次に長谷川式やMMSEと呼ばれる神経心理学検査で認知機能障害の〝パターン〞を見た後、MRIを撮り、脳血流シンチグラフィー(SPECT)で疾患特有の脳の血流パターンの有無を見て、さらに追加の検査をして確定診断をするんですが、そこまでやって専門医が診断しても、正診率は80%台。

 

なのに、「長谷川式テストで30点中16点だから認知症」とか、「海馬の萎縮があるからアルツハイマー型ですね」なんて診断がすごく多い。海馬は歳をとれば萎縮するんで、普通の輪切りのMRIを一発撮ったくらいじゃ原因なんて絶対わからないです。大脳皮質にある160億個の神経細胞のうちの1000個2000個壊れたところで形態変化など出ないので、早期の症状に対してMRIは全く意味がない。重要なのは、SPECTなんです。

 

 

実際、アルツハイマー型認知症と診断されたうちの20〜40%くらいは、アルツハイマー病によるものではない病態(SNAP)とされています。

 

町の先生方には、もうちょっと頑張って欲しいなぁって思います。無知であるということが一番の罪悪だと思うんですよね。そして、知識の前には謙虚でいていただきたい。正しい知識を持ち、その知識を活かして、患者さんの時をうまく刻んでいって欲しいんです。

 

(6月7日号に続く)

聞き手・文 八木純子

 

 

この記事はいかがでしたか?
  • 大変参考になった
  • 参考になった
  • 普通



<スポンサー広告>