介護事業依存から脱却 障害福祉事業への参入戦略 ファミリーケアサポート(北海道留萌市)

2023年5月31日

「拝金主義」か「利用者本意」か 

 保護者との信頼構築、鍵

 

 

新たな経営の柱を作るべく、障害福祉事業の運営を検討する介護事業者も多いだろう。コスト増、人材不足、先細りが目に見えている介護報酬――といった現実を踏まえ、「介護事業のみに依存する体質からの脱却」に向け、児童デイサービス(児童発達支援・放課後等デイ)を始めたのがファミリーケアサポート(北海道留萌市)だ。児童デイを始めるポイントについて田中卓社長に聞く。

 

ファミリーケアサポート
田中卓社長

 

 

 

 

――なぜ児童デイを始めたのか
田中 介護事業では、2007年から訪問介護事業所やデイなど7事業所を展開してきた。「介護事業を活かした新規事業」を模索し、フィットネス事業など保険外サービスも考えたが、当社のリソースを踏まえると現実性がなく、頓挫が続いた。その後、私自身の息子が発達障害と診断されていたこともあり、児童デイに注目。

 

市場分析をすると、以下4つがわかった。

① 発達障害と診断される子どもが2020年までの22年間で6倍以上に増加している(文部科学省令和2年度通級による指導実施状況調査)一方、児童デイの整備は不十分であること
② 地域によって事業所数に格差があること
③ 中には「ゲームで遊ばせるだけ」など事業所によってサービスの質に差があること
④ 放課後等デイの収支差率は平均5.9%(令和4年障害福祉サービス等経営概況調査)と、介護事業全体の平均3.0%(令和4年度介護事業経営概況調査)に比べると収益性が高いこと

 

これらから「公益性」と「収益性」が両立すると判断し、20年に児童デイを始め、22年に2ヵ所目を新設した。

 

 

――介護事業と児童デイの親和性は
田中 介護事業者だからこそ活かせる点は多い。

▽社会福祉士などの有資格者は実務経験問わず児童指導員の任用資格を取得できる
▽介護事業所の空きスペースや送迎車など設備を共有できコストカットにつながる
▽職員は両事業で活躍できるため採用費が節約でき、職員のキャリアの幅が広がる

など。
何より、介護事業所に併設する場合、高齢者と児童の交流から生まれる笑顔には予想以上の感動がある。

 

 

児童デイサービス「リると」外観

 

 

――収支の状況は
田中 当社の児童デイの定員は1日計10名。介護事業と同様、高稼働率を維持することや「専門的支援加算」など加算を可能な限り取得することが売上に直結する。収支計画では、開業半年後には収支をプラスとし、その時の登録者数は35~40名で売上は月約300万円と想定。1年後には初期投資額を回収できる計画で、その通りに実行できている。

 

 

――稼働率は90%以上を維持。その要因は
田中 下支えしているのは徹底的なブランディング戦略。ペルソナづくりや業界分析、自社の強みを活かすことを踏まえた結果、発達障害児に対象を絞り、一人ひとりが持つ強みを伸ばす「ストレングス視点」と、OTによる手法「感覚統合アプローチ」の2つをサービスの柱に据えた。札幌市内ではOTを配置する事業者がまだ少ない一方、保護者は「専門性が高い」プログラムを求めている。実際、当事業所は空きが出てもすぐ埋まる状況だ。

 

特に「保護者も笑顔にすること」は重要。連絡ノートや送迎時のコミュニケーションを密にする、職員の育成では保護者への伝え方・傾聴のトレーニングをするなど、信頼関係構築に力を注ぐ。保護者間のネットワークは強力で、良い情報も悪い情報もあっという間に広がるものだ。

 

 

――職員の確保・育成のポイントは
田中 介護事業と同様、採用は大変なところではあるが、社員像のペルソナづくりも徹底し、ミスマッチを防いでいる。特に児童発達支援管理責任者など有資格者の確保においては、社員の中から相応しい人を見つけて育てるのが確実。

 

 そして職員育成には時間を惜しまない。研修は職種別、階層別、マネジャー研修など年間延べ2000時間以上。近年は離職率約7%で推移している。

 

 

――障害福祉事業参入者の中には営利のみを目的とした人も
田中 そういった異業種の人やコンサルタントも増えつつあるが、福祉のノウハウがないため職員が成長しない、利用者の発達に合わせた支援計画が作れないなどの課題を持つ事業者も少なくない。「拝金主義」か「利用者本位」かは、全てサービスに映し出される。

 

私がこの事業を始めたもう1つの理由は「モラルの低い事業者を見過ごしてはならない」という使命感から。だからこそ、福祉の考え方やノウハウをすでに培っている介護事業者が手掛けることに意味があるのではないか。当社では児童デイの開設支援事業も行っており、志を持ったプレーヤーを増やし、現場の質を高めていきたいと考えている。

 

 

「リると」内観。OTによるプログラムで差別化

 

 

 

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