【書評】「地域主権という希望」/評:浅川澄一氏

2023年6月18日

岸本聡子著
大月書店
1,600円(税別)

 

 

 

ケアも市場原理から「再公営化」に
 

介護保険の運営責任者、保険者は市区町村の自治体である。オランダやドイツの介護保険とは違う制度だ。制度開始時に「地方分権の試金石」と言われ、自治体の手腕に期待が寄せられた。
 

だが、現実は自治体の独自性はなかなか発揮されていない。その中で、注目される自治体が現れた。東京都杉並区である。
 

昨年6月の区長選挙で、欧州帰りの女性研究者が187票差で4選の現職に勝った。4月の統一地方選挙では女性議員が半数を超え、同区長を支持する議員16人が当選。その区長、岸本聡子さんがオランダの政策シンクタンクから発信した18編のリポートを収録したのが本書である。
 

選挙では気候変動への対策や行き過ぎた民営化への危惧を訴えたが、それらに取り組んでいる欧州諸都市の事例を次々挙げて、実現への道筋を記す。利潤と市場原理から公益、コモンズ(公共財)優先社会への転換を説く。イタリアやフランスなどでの水道事業の再公営化、自治体に取り戻す運動が典型例だという。
 

新自由主義に反対するこうした運動をミュニシパリズムと位置付ける。書名に通じる地域主権主義の意である。
 

介護の分野にも、新自由主義による民営化は進んでいると指摘する。リーマン危機以降、各国とも緊縮財政が正当化された。公的資金の民間ビジネスへの投入が続き、欧州上位25社のケア会社は4年間で22%もベッドを増やし45万人分に達するという。
 

一方で、「公」が民間からその資産を買い上げ、市民に低価格で提供する画期的な動きも詳述される。ベルリンでの住宅革命である。
 

21年9月のドイツ総選挙と同時に実施した住民投票で決まった。大手不動産会社のアパートをベルリン市が強制収容し、公的賃貸住宅にする案が過半数の賛意を得た。高騰する家賃にブレーキを掛ける試みだ。
 

バルセロやナポリ、グルノーブル、アムステルダムなどで動き始めた住民主導の再公営化。加えてフェミニズム運動との共振が目を引く。
 

こうしたうねりが、日本の自治体でどのような形で起きてくるのだろうか。介護保険は「福祉の民営化」「新自由主義の招来」と言われ、目下、効率化の掛け声でケアサービスの縮減が進行中だ。「再公営化」が解決策なのか。杉並区の新施策に目が離せない。

 

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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