【職員確保へのイシュー①】人材紹介集中的指導監督へ 8月に本格始動、選び方・活用法検証
介護関係職種の有効求人倍率は3.73 倍(2023年6月分 一般職業紹介状況)と依然高い。ハローワークや求人広告などでの採用活動を行っても十分な採用が難しく、職業紹介事業者(人材紹介会社)に頼らざるを得ない介護事業者は多い。拡大する介護ニーズへの対応を見据えた人材確保に向け、介護事業者はどのように職業紹介事業者を活用していくべきか。また、職業紹介事業者のあるべき姿について論考したい。
6割以上が利用 業界団体「指導強化求める」
民間の有料職業紹介事業者(以下・紹介事業者)の事業所数は2011年から10年間で1.6倍以上増え、21年度に2万7899件に達した(厚労省令和3年度職業紹介事業報告書)。介護サービス分野における有料紹介事業者を通じた常用就職件数は、21年度で約5万6900件(同報告書)。介護事業者の6割以上が中途採用において紹介事業者を利用している状況だ(21年一般社団法人全国介護事業者連盟・高齢者住まい事業者団体連合会調査)。
介護に加え、医療・保育の3分野から寄せられる紹介事業者への課題に対し、政府は今年4月14日、内閣府の規制改革推進会議において対策を検討する機会を設けた。
会議内で、一般社団法人『民間事業者の質を高める』全国介護事業者協議会は「手数料は想定年収の20〜25%が多かったが、近年は30〜35%に上昇傾向。紹介される人材や担当者の質が低い」といった声を挙げ、政府に監査指導を提案した。
介護事業は公費(税金)と保険料を財源としており、本来であれば手数料は職員の処遇改善に充てられるべきもの。介護サービス利用料は公定価格であるため、手数料分を転嫁できないのも、介護報酬の先細りが見えている現状において大きな課題として挙げられる。
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介護事業者の声
国の適正化は賛成 選ぶリテラシーを
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ドットライン
垣本祐作代表取締役兼グループCE0
今回の適正化は、求職者、紹介事業者にとっても長期的な就業によるキャリア形成を目指していける良い動きだ。紹介サービスの考え方は紹介事業者によって様々。結果主義となり、求職者の要望に沿っていない会社に無理やり紹介してしまう担当者もいると聞く。介護事業者側は、紹介事業者や担当者を選ぶリテラシーを持つと共に、長期的に付き合う前提で自社の考え方や職員のペルソナなどをしっかりと共有していくことが重要だ。
採用に注力しない 介護事業者に課題

未来企画
福井大輔社長
今回の対応が人材確保の根本解決になるかは疑問。紹介事業者を取り締まるよりも、頼らざるを得ない介護事業者がきちんと採用に尽力しているか評価する必要があるだろう。
中にはブランディングを意識せず、HPも昔のままという事業者も多い。それらにコスト・時間をかけず、紹介や派遣でつないでいるような事業者は問題。「人がいないからできない」スパイラルを止め、まずは定着を図り、人材確保に向けた取り組みを真剣に行うべき。
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3分野の声を受け政府が方針決定
これまでも介護・医療・保育分野に限らず、職業安定法によって紹介事業者への規制は行われてきた。しかしこうした声が特に3分野から絶えず挙げられていることから、政府は今春、3分野に関わる紹介事業者に対する適正化、集中的指導監督に向け動き出した。
6月に閣議決定された「骨太の方針2023」では、医療・介護分野について、「関係機関が連携して、公的な職業紹介の機能の強化に取り組むとともに、有料職業紹介事業の適正化に向けた指導監督や事例の周知を行う」と明記。さらに「規制改革実行計画」では「医療・介護・保育の3分野における人材確保の円滑化のための有料職業紹介事業等の制度の見直し」を決定した。
これら内閣府の方針や計画を受け、厚労省の7月10日社会保障審議会・介護保険部会では、紹介事業者に対する今後の対応について具体的な4本柱を公表した(表参照)。これら取り組みは
今年度内に実施される。早速、厚労省は8月から紹介事業者への集中的指導監督を進める。それに向け、トラブルなどは今年2月から各都道府県に設置された「『医療・介護・保育』求人者向け特別相談窓口」に相談するよう呼び掛けている。
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厚生労働省に聞く
求人者にも調査進める トラブルは「特別相談窓口」へ 「人材確保対策コーナー」拡充
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職業安定局 需給調整事業課 熊坂翔太郎調整係長(左)/雇用政策課 民間人材サービス推進室 俵田憲諭室長補佐(中)/総務課 人材確保支援総合企画室 鈴木啓介室長補佐(右)
紹介事業者に対する意見は以前からあり、職業安定法を改正するなど手を打ってきた。
しかし3分野からは引き続き声が寄せられていることから、さらなる指導監督の徹底などが必要であるとして施策を進めている。
中でも、「悪質な職業紹介事業者の排除」は、8月より紹介事業者への集中的な指導監督を実施し、その効果を把握した上で、必要に応じ措置を検討していく。より実効性のある指導ができるよう、求人者(介護事業者など)にも調査を行う。
これまでも分野を問わず指導は行っており、21年度には約4300事業者を調査し、3分野で違反があるとされている「お祝い金」については8件の違反を確認。是正指導を行っている。「罰則がないため徹底できないのでは」という声もあるが、これまでに指導した法人はきちんと応じている状況だ。
また、3分野に限らず、「職業紹介に関する相談窓口」を今年度も開設した。法に違反しない〝ちょっとしたトラブル〞でもメールや電話で相談してほしい。8月以降にはセミナー「求人のプロが教える、紹介事業者とこう付き合っておけば採用課題が解決する!」も無料開催するため、情報収集に役立ててもらいたい。
また、ハローワークに機能強化を求める声が求人者から届いている。それに応えるべく、医療・介護・保育・建設・警備・運輸の6分野のマッチング支援を強化するために「人材確保対策コーナー」を設けている。通常、ハローワークは求職者と求人者の窓口が別であるが、窓口を一体化することで両者のニーズを的確につなげ、マッチングを図るもの。6分野に特化した相談職員を配置し、情報を集約。介護業界を希望する求職者はこちらに案内している。22年度の就職実績は7万8000件以上だ。ハローワークは現在各都道府県に約400ヵ所あるが、人材確保対策コーナーがあるのは現在115ヵ所。今後少しずつ増やしていく方針。ほか、注力するのは人材定着の支援。今年度は公益財団法人介護労働安定センターとの連携を強固にし、支援に取り組む計画である。
ハローワークと並行して、無料で職業紹介を行っている「福祉人材センター・福祉人材バンク」の活用も勧めている。各都道府県の社会福祉協議会に設置されており、福祉に特化した人材確保に取り組む公的な機関だ。介護現場に詳しい相談職員を配置しているため、より丁寧なマッチングが可能。21年度の就職実績は全国で約1万件。今後、求人者・求職者双方への周知をより強化していく。
公的機関も活用を

老健局 高齢者支援課介護業務効率化・生産性向上推進室 秋山仁室長補佐
人材確保の課題は、介護事業者が労働環境の改善を行っていかないと解決しない。打ち手として、介護ロボットやICTの活用を含めた生産性向上など一体的な取り組みが有効となる。
今年度より、地域医療介護総合確保基金を活用し、生産性向上の取り組みに関する相談をワンストップで受け付け、必要な助言や情報提供などを行う「介護生産性向上総合相談センター」の設置を、各都道府県が進めているところ。こちらの窓口も最大限活用してもらいたい。