マイナンバー紐付け誤り/武藤正樹氏

2023年9月19日

名前と住所に潜む魔物
 

マイナンバーの紐付け誤りがさらに増えている。2023年8月8日のマイナンバー情報総点検本部の中間報告によるとこれまで判明していた紐付け誤りが1069件増えて、8441件となったという。どこまで増えるのだろう?
 

 

個人の紐付けは名前、生年月日、性別、住所の4情報で行っている。このなかに紐付けを邪魔する魔物が潜んでいる。とくに名前と住所が問題だ。
 

まず名前から見ていこう。最初の魔物は同姓同名だ。田中康仁氏によると100万件の姓名のうちなんと35万件も同姓同名があるという。最頻出の名前は男性では鈴木実、女性では鈴木和子だ。これに生年月日を組み合わせることで魔物の頻度はぐっと下がる。名前の第二の魔物は漢字の魔物だ。渡辺・渡邊、富山・冨山、川崎・川﨑などの新字体と旧字体を誤って入力するとたんに紐付けができなくなる。
 

名前の三番目の魔物は名前の読み方の違いだ。きらきらネームが読みにくい。山田光宙(ぴかちゅう)、山田大空(すかい)、山田騎士(ないと)など。
 

次に住所にも魔物が潜んでいる。実は住所には2種類ある。「地番」と「住居表示」だ。地番は法務局が土地一筆ごとに定めた住所のことだ。一方、住居表示は市町村が定めた表示で、郵便物を配達する場合に使われる。この地番と住居表示が混在している。たとえば千葉県のディズニーアンバサダーホテルの住所は千葉県浦安市舞浜2-11だ。これは地番で「舞浜の2番地11」と言う意味だ。一方、浦安市の舞浜小学校の千葉県浦安市舞浜2-1-1は住居表示だ。こちらは「舞浜2丁目1番1号」だ。この地番と住居表示の入力誤りも多い。さらに省略記号の2-1-1の入力誤りも多い。数字の半角・全角、ハイフン・ダッシュの入力誤りだ。
 

 

以上のように気が遠くなるような魔物の連続だ。これで誤りをするなと言うほうがムリだ。実は、こうした紐付け誤りはこれまでもあった。

 

例えば医療DXの目玉商品の全国医療情報プラットフォームにおけるレセプトデータと特定健診等情報を個人レベルで紐付ける作業を行ったとき、両者の紐付けがレセプトデータと特定健診情報等で、姓名の新字体・旧字体、漢字・カタカナ、数字の全角・半角の違いで紐付けがなんと全体の25%しかできなかった例もある。さらに消えた年金記録では紐付けができずに宙に浮いた年金件数が5095万件にも上った。これに比べたら、今回の8441件などは全体の0.009%の頻度だ。そしてその全てがマイナンバーを提出していない事例で起きている。魔物退治にはマイナンバーしかないのだ。

 

 

武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)

 

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