夢を語れ!/スターコンサルティンググループ 糠谷和弘氏
未来を明るくするのは施設長
「ダイジェスト」のその四は〝数字を操れ!〞でした。やはり敏腕施設長を目指すならば、経営数値、運営数値には精通していなくてはなりません。なぜなら経営、運営に関するもののほとんどは、数字で表すことができるからです。もしあなたが「数字が苦手」ということであれば、せめて日常的に押さえておくべき要素だけでも特定し、管理していくことが重要です。そしてできれば、訓練をして数字に強くなりましょう。
しかし数字ばかりに偏りすぎてもいけません。営業会社ではないのですから、あまりに重視しすぎると、現場が荒んでいきます。それが行き過ぎて「施設長は〝儲け主義だ〞」などという悪評が立ってしまうと、現場への指示がやりづらくなります。そこで今回は、五訓の最後として〝夢を語る重要性〞をお伝えします。ただし〝夢〞といっても、壮大なロマンを語るということではありません。経営、運営にとって不可欠なものとして考えてほしいと思います。
■経営と数営の違い
事業を営むことを「経営」といいますが、文字をよく見てください。〝経〞を〝営む〞と書いています。本来の意味は、事業の目的を達するために〝経路(みちすじ)〞、つまり〝戦略〞や〝戦術〞を営んでいくことですが、〝経〞には「きょう」という読み方もあります。「経営」には〝お経〞を〝営む〞という意味もあるのです。
「お経」というと一般的には、お釈迦様の教えをまとめたもので、お寺の〝お唱え〞を指しますよね。では、企業における「お経」とは何か。それは「経営」という言葉と対比して使われる「数営(すうえい)」と一緒に考えるとわかりやすいと思います。
経営:企業のお経(=理念、ビジョン、事業目的、行動基準等)を営む
数営:企業の数字(=投資、売上、利益、コスト、客数等)を営む
このように、仏教で言う〝お経〞が人間の生き方やあるべき姿を表すように、企業の〝お経〞は、事業の目指すところや、あるべき姿を表わします。
では「数営」がいけないのかというと、そうではありません。前回もお伝えしたように、数字は大事。しかし、企業運営を「数営」ではなく「経営」と呼ぶように、〝お経〞を唱えて、それを営んでいくことを重視することの方が重要なのです。
■〝明るい未来〞が見えなくなってきている
最近、介護業界には明るいニュースがありません。ここ数年の採用難による現場の人手不足に加え、物価高、電気、ガソリンなどの燃料高。さらには、新型コロナウイルスの感染再拡大もあります。そこにきて、来年の介護報酬改定です。具体的な議論はこれからですが、国の財政を司る財務省からは社会保障費の抑制を強く要請されているようです。この環境下で〝マイナス改定〞を注文することにはまったく理
解ができませんが、かといって大幅なプラス改定も期待できない。
このように、明るい材料が見いだせない介護業界ですから、現場で働く方々はきっと大きな不安を感じていると思います。利用者やその家族もまた同じです。食費を値上げする施設が増えていますし、有料老人ホームなどでは利用料や管理費、共益費を見直す施設もあります。しかし、費用が増えているにもかかわらず、現場のスタッフはギリギリで、サービスレベルが下がっているところもあります。スタッフ、利用者の両者にとって、未来は不透明なものになっているのです。
■施設長は〝夢〞を語れ
こんな状況を打破するのは、ほかの誰でもなく施設長であるあなた自身です。あなたがスタッフだけでなく、利用者も魅力を感じるような「施設の未来像」を語ることができたら、スタッフは仕事をする手に力が入りますし、利用者の生活も、より明るいものになっていくでしょう。
「俺は(私は)こんな施設をつくりたい!みんな一緒にここを目指そう!」、そう語ることが五里霧中の世の中で、スタッフたちが一体化して前向きになるきっかけとなるのです。
そしてこのことは、あなたにとっても大事なことです。施設の行末に〝旗〞を立てることは、あなたが迷ったときに決断する目印にもなります。ぜひ恥じることなく、あなたの夢を語ってほしいと思います。
糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。