【ケアを見直す】職員の「介護観」を変える 介助方法・設計をプロデュース
人間の自然な動きを活かし、高齢者の持つ力を引き出す「楽ワザ介護術」(下写真)がSNSなどで話題のRX組(富山市)青山幸広代表。介助方法に加え、事業所の設計アドバイスにも携わる。職員の「介護観」を変え、施設の売上を伸ばし、新たな職員を呼び込む――そんな介護プロデュースをする青山代表に話を聞いた。

RX組 青山幸広代表
全国2万人に伝授
――事業内容は
青山 人材不足やリスクを恐れる体質などにより「職員本位」のオペレーションを組み、集団行動を押し付けたり、危ないからと本人のやりたいことを止めたりする施設は多いだろう。そういった介護では高齢者の心身機能は衰え、職員のやりがいがなくなり人材不足に陥ってしまう。
そこで私は、「利用者本位」で高齢者が役割を持って活躍できる▽「楽ワザ介護術」の指導(実技研修料の場合3時間10万円)▽意識・業務・環境の改革や新設・改修の設計アドバイス(1回15万円〜)を行っている。
これまで手掛けてきた事業所は特別養護老人ホームやデイサービス、訪問介護など全国で1000ヵ所。延べ2万人に楽ワザ介護術を伝えてきた。出版する7冊の本は累計5万部売り上げている。

「楽ワザ介護術」
――具体的には
青山 設計で私がアドバイスするのは▽屋外でも活動できるようにすること▽居心地や安全性を考慮してコンパクトな動線にすること▽浴室、トイレ、キッチンなどは詳細な寸法と設計で自立を支援すること――など。
例えば、写真1のようなトイレは▽180度の回転が必要で転倒の危険がある▽便座が高齢者には高い――などが問題。そこで手すりの位置や高さに配慮し、便座は400ミリメートルの高さや角度などにこだわった設計を提案している(写真2)。車椅子の利用者も立ちやすいところに掴まり、自分でズボンを降ろして排泄できる。
こういったハード(設計)に加え、ソフト(楽ワザ介護術)を身に付けることにより事業所の介護力が高まる。その結果、特養の入居者の90%がおむつやリハビリパンツを利用していたが約1年で90%の人が布パンツになった事例や、半年で入居者50名全員が特浴やチェア浴などから個浴に移行できた事例もある。機械浴やおむつ代のコストを削減し、介助人数低減により人件費も下げられると経営面で効果が現れる。中重度者を受け入れる自信が職員に生まれ、平均要介護度を高めて売上を伸ばす施設もある。
――求められる「介護のあり方」とは
青山 職員と利用者は介護をしてあげる/されるの上下関係ではなく、豊かな暮らしを一緒に叶えるのが介護の本質。「流れ作業」のケアは求められていない。
人というのは、誰かの役に立つことが一番嬉しいもの。役割を持って活躍できるよう、車椅子の利用者も料理ができるキッチンの設計にする、工房を設置して作業できるようにするなどの仕掛けが設計段階から必要だ。そして職員は利用者から作業を「教えてもらう」くらいの関係が丁度良い。
それらを地域住民と行って社会参加を生むことも重要。人々が立ち寄りやすいようバーベキュー場やボルダリングを設置するなどの仕掛けも事業所を面白くする(下部記事参照)。地域に開かれた事業所は職員が目を離しても利用者を見守ってくれる人が増え、新規職員も集まりやすい。
――「職員本位」から「利用者本位」の事業所に変化するには、どこから始めたら良いか
青山 まずは「入浴」。芋洗い式の入浴や機械浴を採用する事業所もあるが、着実な設計と介助術で利用者が個浴に入ることができる(写真3)。ゆっくり湯に浸かり、これまでにない利用者の至福の表情を見た時、職員の介護観は大きく変わる。これはその場で体験しないと分からない。そこからリーダーが生まれると事業所は変わり始める。そして3年、長いと10年程の月日をかけて組織の風土は少しずつ変わっていくものだ。
◇◆◇
利用者とアップデート〝未完成〞のデイ
青山氏の指導を受け、3年程前に青森県田舎館村に開設したのがデイ「いぶし銀(定員25名)」(運営:ケアサポートかがやき)。

ケアサポートかがやき 棟方和紀専務取締役
「地域の多世代が集い、読書、料理、大工、畑仕事などお互いができることを讃え合い、頼られる喜びを味わってもらえる場とした」と棟方和紀専務取締役。青山氏の助言のもと、釜戸や畑を用意したり、ボルダリングを設けたり、人が集う仕掛けづくりを実践。自力で排泄するといった当たり前の生活習慣を続けられるようトイレや浴室、洗面台、キッチンも細かく設計した。また、職員は青山氏の指導により介助術を習得している。
職員は「仕事をしに来ている」というより「今日はAさんとこう過ごし、教えてもらおう」とともに暮らし・遊ぶ感覚を持っており、それが長く働くポイントだという。「高齢者に残された時間は長くない。マシンを使ったリハビリや歩行測定などに時間を割くよりも、職員とやりたいことをやったほうが良いと考える」(棟方専務取締役)

利用者とウッドデッキづくり
開設にあたり、受けた融資は約6500万円。その限られた資金の中で、オープン時は必要最低限の設備に抑え、足りない部分は利用者とともに作り上げることとした。現在、平均稼働率は85〜90%。月間売上500万円から月5〜10%ほど投資し、作業場やウッドデッキなど少しずつ皆で理想の空間を作っている。今後は消防設備を設けて宿泊できる環境を整え、看取りができるデイも構想中。