【書評】最期まで家で笑って生きたいあなたへ/評:浅川澄一氏

2023年9月18日

書評 介護・医療業界注目の一冊

 

小笠原文雄著
小学館
1,540円(税込)

 

 

入院にない「笑い」がある自宅死
 

日本人の70%近くは病院で亡くなる。82%にも達していた17年前から徐々に比率は下がっている。それでも欧米に比べれば、まだまだ「病院信仰」が根強い。
 

自宅死は2012年には前年より1.5ポイントも急増して17.2%まで上がった。コロナ禍で入院がままならなくなったことや面会制限を回避し退院志向が高まったためであろう。
 

それでも自宅死はかなり少ない。その中で著者は一貫して「本人にとって自宅での看取りほど幸せなことはない」と訴え、そして在宅医として実践し続ける。
 

「病院には大勢の人がいるが、患者さん一人ひとりに目を配ることが難しい。患者は孤独」と説く。規則に縛られ、気ままな自宅暮らしとはほど遠い。人生最期の残された日々なのに、と思う人の背を推すのが本書だ。
 

自宅で「最期まで笑う」人たち27人の事例を詳細に取り上げた。一人ひとりの患者や家族と交わした暖かい言葉がそのまま記される。「入院させたい」と主張する家族を丁寧に諭す場面も。「ご本人の気持ちはどうなのでしょう」と問い返すと、家族は考え込む。
 

次から次に看取りの事例が並ぶ。6年前に著した『なんとめでたいご臨終』でも同様。その続編だが、今回強調しているのは、一人暮らしであること。半数近い12人は独居。でも、介護保険と医療保険を上手に活用すれば、大きな出費をしなくても乗り切れるという。
 

かかった総費用を明かす。「在宅医療はお金がかかる」との俗説への反証だ。保険の自己負担分と自費の数字を4人について、きちんと示す。「3万円あれば十分です」と、年金9万円の高齢者に約束する。
 

もうひとつ、心不全患者への対応が目新しい。がんに次いで死因の第2位は、心不全を含めた心疾患である。それだけ治療が難しい。
 

「心不全の在宅医療は専門知識が必要なので広がっていません」と認めつつ、3人の事例を挙げて検証する。心不全の悪化に気付く5か条と悪化を防ぐか条を提言。循環器の専門医としての手の内を披露する。
 

日本の閉鎖的な医療社会でこれだけ率直に堂々と経験を開陳するのは珍しい。前著と同様に、笑いながらピースサインをする遺族たちの写真が著者の思いを示している。患者たちの望を叶えたいという心意気である。

 

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

 

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