【書評】家で死ぬということ/評:浅川澄一氏

家で死ぬということ
石川結貴
文藝春秋
1,760円(税込)

想定外だらけの「独居老人の死」
「在宅死は『理想の死』のようにもてはやされ、・・・おひとり様でも最期まで自宅で過ごす、そんな風に素晴らしさが強調され多くの共感や賛同が集まっている」と著者は、今の風潮に疑問を抱く。
続けて「『勝ち組』の視点を持ってすべての在宅死を語れるわけではない」と、勝ち組でない、別の在宅死を語りだす。
ベストセラーになった「在宅ひとり死のススメ」は社会学者、上野千鶴子さんの著書だ。そのおひとり様の自宅死に反論したのが本書と受け止めていいだろう。
上野さんへの批判は、昨夏、介護サービスを手掛けるNPO法人理事長の小島美里さんが「あなたはどこで死にたいですか?」を著し、認知症の人には無理だと論及した。現行の介護保険の在宅サービスでは支えきれないからだという。
小島さんは事業者視点だったが、本書の著者は家族介護の体験者。「毒親介護」「スマホ廃人」などの著書があるジャーナリストだ。
一人暮らしの父親の遠距離介護を3年間続けた体験から、在宅ひとり死への疑問を募らせる。父親は87歳の元小学校教師で終末期に近付く。静岡県伊東市に住み、娘の著者は東京で働いている。
「病院や施設は嫌。家で死にたい」と主張する父親。その願いを叶えるべく、医療保険と介護保険に振り回されながら奔走する。親子の情などプライバシーを思いっきりさらけ出して「壮絶な」日々を振り返った。
腎臓の悪化で人工透析しか手立てはないと医師から宣告されるが、父親は断固拒否してしまう。認知症はなくADLの低下もあまりないため要支援2の軽い判定に止まる。そのため訪問介護やデイサービスは限られ、1年後には非該当になり、著者の伊東通いは頻度を増す。
家族にかかる「負担」がどのようなものかが詳述される。「インセン」という業界用語が陰部洗浄と分かり、実行に躊躇したり地元に訪問診療医が見つからなかったりなどあたふたぶりも正直に描かれる。
仕事柄、情報収集のプロなのに押し寄せる難問。想定外の連続だ。標準治療から外れた独居者が在宅死を望むのは、現行制度には馴染まない。
「選択の自由」を掲げた介護保険も自宅死には制度が追い付いて来ない。その実例をきちんと提示した貴重な一冊である。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏










