2025年8月13日号 15面 掲載
【書評】うりずんの風に吹かれて/評:浅川澄一氏

高橋昭彦著
クリエイツ
かもがわ
2,420円(税込)

医療的ケア児に全力伴走の在宅医
医療的ケア児がいる家庭に全力で手を差し伸べてきた医師の体験記である。医療的ケア児とは、人工呼吸器や気管切開、経管栄養、酸素吸入、胃ろうなどが常時必要な子どもたちだ。
著者は栃木県宇都宮市の診療所「ひばりクリニック」の院長であり、医療的ケア児に向き合う認定NPO法人「うりずん」の理事長である。昨年刊行された分厚い「在宅医療――治し支える医療の概念と実践」は、在宅医療の画期的な指南書だが、そこで「小児在宅医療」を執筆したのは著者だ。小児の第一人者として指名されたのだろう。
医療的ケア児でも最重度の人工呼吸器を付けた子どもに着目。健康な子どもと同様の生活が送れるように医療や介護の手だてを総動員して立ち向う姿勢が詳述される。動物園に行く、沖縄への修学旅行参加、母親の出産を手助け――――「無理だ」と言われていたエピソードばかりだ。
支援には日中の預かりサービスが必要と決断、地元自治体を動かす経緯はハイライトのひとつ。今では放課後等デイサービスなどが始動しているが、年前は空白だった。一人の医師の奮闘が、全国約2万人の医療的ケア児向けの支援の制度化を牽引した。
さらに本書が興味深いのは、著者が生い立ちを振り返り個人史と重ねていること。大学時代の障害者ボランティア活動、小児科研修医や病院での在宅医、老人保健施設勤務、さらに海外視察などを振り返る。母親が統合失調症の診断を受け、家庭生活が一変したとも記す。米国でホスピスのシスターからのアドバイスが「人生の転機」となり、家庭医への進路を決断したという。
活動の原動力について「何かに突き動かされるように」「どうしてもやらなければならない」という素直な記述が読者の心を打つ。
宇都宮市での在宅医療の体験から「認知症高齢者の宅老所はホスピスマインドと同じ」との指摘に筆者は膝を打つ。その思いが、診療所開業時に「鎧になる白衣は着ない。診察室では立ってお迎え、お見送り。世間話は多めで、少しおせっかいな診察」という素晴らしい流儀を生んだのだろう。英国やオランダの家庭医(GP)に通じる。
日々の活動の有り様は枚の口絵カラー写真で一目瞭然である。さまざまな多くの笑顔が本文を裏付ける。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏










