2026年2月11日号  9面 掲載

夫を亡くしたAさん/女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

2026年2月14日

 

尊厳を守るためにできること

 

3月で在宅ケアマネジャーとなり1年が過ぎようとしている。この間で18人の利用者さんと関わってきた。

 

Aさんは夫の自営業を長年内助の功で支えてきた女性で、身寄りは夫のみ。元気な頃は多趣味で、現在も「動くのがつらい」と言いながら部屋はいつも綺麗に整理整頓されている。私が出会う1年ほど前に、夫は遠方の有料老人ホームに入所した。Aさんは急な一人暮らしから、常に不安感があり、事業所に頻繁に電話をかけ、夫のいる有料老人ホームへ私も入りたいと訴える。だがその施設は要介護1からの受け付けで、Aさんは要支援1。周りからの勧めで、自ら区分変更の申請を申し入れてきたことで、暫定プランで私が担当することになった。認定調査員にAさんの思いは届かず結果は要支援1。私の担当からもいったん離れた。

 

だが、本人の希望から3ヵ月ほどで再度変更の申請を行う。程なくして夫の体調がすぐれない連絡などが入り不安定な状況が続いた。「深夜に上階で物音がして眠れないから台所で眠りたいのだけど布団が重くて持てないの」。今にも消え入りそうな声で事業所に電話があり駆け付けた。寝室から台所に布団を引きずっているAさんが笑顔で扉を開けた。

 

そんな矢先に夫が逝去なさる。各事業所と状況の共有をして、本人の不安感に寄り添えるように連携を取った。本人は「私は日々を変わらずに過ごしたいの、だから予定通りデイサービスも行くわ」と仰り、冷静に対応をしているように見えたが、急に忘れることが多くなった。その変化を気づいている様子がなく、表情は以前と変わらない。そして夫が亡くなったことで、それまで名前は本人から聞いてはいたが、急に法定代理人の存在が出てきて、全てがその人の判断となり、夫がいた有料老人ホームへの入所が決まるまで、介護老人保健施設へ入所することになった。

 

2週間ほどして会いに行くと、電話も何もかも取り上げられ、入浴後の着替えでさえ自分で決められない、と今の気持ちをぶつけてくる。そしてなけなしの小銭で公衆電話から今の状況を私に伝えてくる。ここに尊厳の保持や希望をもった暮らしがあるのだろうか……。そして私には何ができるのだろう。

 

 

 

女優・介護士・看護師 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」「ケアマネ女優の実践ノート」

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